グラスフェッドバターの値段は、生乳20キロが1キロになる構造で決まります
- 8月17日
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更新日:8月20日
スーパーの乳製品売り場でグラスフェッドバターの値札を見て、普通のバターとの差に驚く場面は珍しくありません。この値段の違いは、希少だからという曖昧な言葉では説明しきれません。原料の量と土地の面積という算数で明確な理由が存在します。バター1キロを作るには生乳20キロ超が必要であり、その生乳を出す牛には広い草地が求められます。
バターの値段は、1個が背負う原料の量で決まります
冷蔵庫に入っている200グラムのバターを想像してみてください。この四角い塊を作るために、どれだけの生乳が使われているかを考えたことはあるでしょうか。
日本乳業協会によれば、バター1キログラムを作るには生乳が約20から23キログラム必要とされます。スーパーでよく見かける200グラムの箱入りバターに換算すると、約4リットルの生乳が使われている計算になります。大きな牛乳パック4本分が、あの小さな四角い塊に収まっているのです。
この構造は、同じ生乳から牛乳を作る場合と比較するとわかりやすくなります。
項目 | 牛乳 | バター |
必要な生乳の量 | 1キログラム | 20から23キログラム |
出来上がる製品の量 | 1キログラム | 1キログラム |
水分の割合 | 約88パーセント | 17.0パーセント以下 |
特徴 | 生乳をそのまま殺菌して詰める | 水分を抜き乳脂肪分を80.0パーセント以上に凝縮する |
牛乳は、搾った生乳を殺菌してそのまま容器に詰めます。生乳1キログラムが、ほぼそのまま1キログラムの牛乳になります。
一方でバターは、乳等省令という決まりによって、乳脂肪分80.0パーセント以上、水分17.0パーセント以下にすることが定められています。生乳の大部分を占める水分を抜き去り、脂肪分だけを抽出して凝縮する工程を経ます。
生乳を激しく攪拌して脂肪の粒を集め、水分を分離させる作業を繰り返すことで、ようやくバターの形になります。水分と一緒に流れ出てしまう成分も多く、手元に残るのは元の生乳の20から23分の1の重さしかありません。
つまりバター1個は、牛乳の20倍以上の原料を背負って売り場に並んでいます。原料そのものの値段が少し上がるだけで、凝縮されたバターの価格は大きく跳ね上がります。
普通のバターでさえこれだけの原料を必要とするのに、グラスフェッドの生乳を使うとなぜさらに値段が上がるのでしょうか。
牧草主体で育つ牛は、穀物を食べる牛より乳量が少なくなります
牛の食べるエサの違いが、搾れる生乳の量に直接影響を与えます。
一般的な酪農では、トウモロコシや大豆などの穀物を中心とした濃厚飼料を与えます。穀物はエネルギーが高く、牛の体を大きくして効率よく多くの乳を出させるために適した食事です。
これに対してグラスフェッドは、牧草などの粗飼料を主体に牛を育てます。牛は本来、草を食べて消化するための4つの胃袋を持っています。食べた牧草を口に戻してゆっくりと反芻しながら消化していくため、穀物を食べる牛のように急激にエネルギーを吸収することはありません。
時間をかけて草を分解し、少しずつ栄養に変えていきます。反芻という行動は、牛が1日に何度も繰り返す重要な作業です。ゆっくりと草を噛み、胃を戻してはまた噛む。このゆったりとしたサイクルが、牛の体に無理をさせない一方で、生産される乳の量には限界をもたらします。
その結果、グラスフェッドで育つ牛は、自分の体のペースに合わせて乳を出します。1頭の牛から1日に搾れる生乳の量は、穀物をたっぷり食べて育つ牛と比べてどうしても少なくなります。
少ない生乳しか搾れない牛から、さらに20から23分の1に凝縮してバターを作るわけです。原料の確保そのものに時間がかかり、生産効率は決して高くありません。
効率を追求しない育て方が、グラスフェッドバターの値段を構成する一つの要因です。そして乳量が少ないことに加えて、牛を育てる環境そのものにも広大な面積が求められます。
放牧地とは別に、冬の貯蔵草を育てる広大な土地が必要です
グラスフェッドの牛を育てるには、牛が自由に歩き回り、新鮮な草を食べるための広い放牧地が欠かせません。
全国の生乳のおよそ半分は北海道で生産されています。北海道の広大な大地は放牧に適していますが、季節の変化という大きな壁が存在します。
冬になると牧場は深い雪に覆われます。牛は外で草を食べることができなくなるため、暖かい牛舎の中で過ごす期間が生まれます。この冬の間に牛が食べる草をどうやって用意するかが、グラスフェッド酪農の最大の課題です。
牧場では夏の間に、冬用の貯蔵草を作ります。草を刈り取り、乾燥させたり発酵させたりして保存します。
ここで重要なのは、牛が日々歩き回って食べる放牧地とは別に、刈り取り専用の広大な草地が必要になるという事実です。牛が放牧地で自由に草を食べてしまうと、草は短く保たれます。それでは冬のための草を長く伸ばして、トラクターで一気に刈り取ることができません。
牛1頭が1日に食べる草の量は膨大です。冬の間、数ヶ月にわたって牛舎で過ごす牛たちのために、夏の間にどれだけの草を刈り取り、保管しなければならないか想像してみてください。巨大なロール状にされた牧草が、牧場の敷地に山のように積まれます。
夏に食べるための土地と、冬の保存食を作るための土地。この両方を維持管理するコストが、グラスフェッドの生乳には上乗せされます。
土地を広く確保し、トラクターを走らせて草を刈り、冬まで保管する。この一連の作業と土地の維持費が、バターの価格に反映されています。このような土地の使い方をする牧場は、日本においてごく一部に限られます。
日本の飼料と土地の構造が、グラスフェッドの価格を押し上げます
日本の酪農全体を見渡すと、グラスフェッドがいかに特殊な環境で作られているかがわかります。
日本の酪農は、牛舎の中で牛を飼う「舎飼い」が約9割を占めるとされます。限られた面積の土地に大きな牛舎を建て、その中で温度やエサの量を細かく管理しながら牛を育てるのが主流のスタイルです。
また、農林水産省の令和4年度概算によれば、日本の飼料自給率は26パーセントにとどまります。牛を効率よく育てるための濃厚飼料に至っては、その約87パーセントを輸入に頼っています。
狭い土地で牛を飼い、海外から船で運ばれてきた穀物を与えて多くの乳を搾る。これが日本の国土と経済状況に合わせた、酪農の基本的な構造です。
項目 | 一般的なバター | グラスフェッドバター |
牛の飼育環境 | 舎飼いが約9割 | 広い放牧地が必要 |
主なエサ | 輸入に頼る濃厚飼料(穀物) | 牧場内で育てる牧草 |
乳量の傾向 | 効率よく多くの乳を出す | 牛本来のペースで乳量が少なくなる |
土地の必要性 | 牛舎を建てる面積が中心 | 放牧地と冬の貯蔵草用の広大な草地が必要 |
グラスフェッドは、この日本の主流とは真逆の構造を持っています。輸入穀物に頼らず自前の草を育て、牛舎だけでなく広大な草地を維持します。
構造が根本から違うため、一般的なバターとグラスフェッドバターの値段を単純に比較することはできません。グラスフェッドバターの高い値段は、日本の土地と飼料の構造の中で、あえて牧草主体の酪農を選ぶことによる必然的な結果です。
構造の違いが値段に直結するとはいえ、高い値札がそのままバターの良さを保証するのでしょうか。
値段が高いからといって、無条件に良いバターというわけではありません
売り場で高い値札を見ると、無意識のうちに「高いのだから絶対に美味しいはずだ」と思い込んでしまうことがあります。しかし、値段の高さと自分の味覚や用途に合うかどうかは別の問題です。
ここまで見てきたように、グラスフェッドバターの値段は原料の凝縮率や、広い土地を維持するコストの積み上げで決まります。値段はあくまで生産にかかる費用の結果であり、味の絶対的な良さを証明する数字ではありません。
料理のコクを出したいときや、濃厚な風味を求めているときにグラスフェッドバターを使うと、想像していた味と違って物足りなく感じることがあります。
たとえば、ソテーやホワイトソースのようにバターの重厚なコクを前面に出したい料理には、一般的なバターの方が適している場面もあります。一方で、パンの小麦の香りを邪魔せずにミルクの風味だけを軽く添えたいときには、グラスフェッドバターが真価を発揮します。
自分が何を求めてバターを買うのかを明確にすることが大切です。休日の朝のトーストにさっぱりとしたミルクの風味を足したいのか、それとも焼き菓子作りにどっしりとした重みを出したいのか。目的によって選ぶべきバターは変わります。
高いから良いものだという期待だけで買うのではなく、特徴を知った上で選ぶ行動が必要です。
本当に自分に合うかどうかは、自分の舌で確かめるしかありません。グラスフェッドバターを味わうなら、季節ごとの変化に目を向けてみてください。
季節ごとの味の違いを確かめることで、値段の理由を体感できます
グラスフェッドバターの最大の特徴は、牛が食べる草の変化がそのまま味と色に現れることです。当社が実際に確かめている味の見解をお伝えします。
グラスフェッドミルクから作られるバターの基調は、すっきりとして後味が軽く、ミルクの甘みが残ります。お客様からも「軽さに驚く」「あっさりしている」という反応をよくいただきます。
夏から秋にかけての青草の時期は、青草の香りが立ち、よりすっきりと軽やかな味わいになります。草に含まれるβ-カロテンの影響で、バターの色は鮮やかな黄色みを帯びます。
一方、冬から春にかけての貯蔵草の時期は、乳脂肪が乗ってコクが増し、濃厚になります。この時期は青草を食べないため色は白に近づき、草の香りは穏やかになります。
色、草の香り、コクはそれぞれ別の軸で変化します。冬のバターは色が淡く、香りは穏やかになりますが、コクは増すのです。
休日の朝食で、いつものトーストにグラスフェッドバターを塗ってみてください。口に広がる軽やかな風味や季節ごとの色の違いを感じたとき、広大な草地と膨大な生乳の存在が、少し身近に感じられるはずです。
よくある質問
Q. グラスフェッドバターは普通のバターの代わりに料理に使えますか?
A. はい、そのまま置き換えて使えます。ただし、グラスフェッドバターはすっきりとした軽い後味が特徴です。こってりとした重いコクを出したい料理には物足りなく感じることもあります。料理の目的に合わせて使い分けるのがおすすめです。
Q. 冬に買ったグラスフェッドバターの色が白いのはなぜですか?
A. 牛が食べる草の種類が変わるからです。夏に青草を食べるとβ-カロテンの影響で黄色みを帯びますが、冬に乾燥させた貯蔵草を食べると色は白に近づきます。色が薄いからといって品質が落ちるわけではありません。
Q. グラスフェッドバターを食べれば健康になりますか?
A. バター単体で特定の効果を約束するものではありません。グラスフェッドバターには牧草由来の成分が含まれますが、食事全体のバランスが重要です。健康上の不安や食事療法については、必ず医療機関にご相談ください。
Q. なぜスーパーの売り場にはグラスフェッドバターが少ないのですか?
A. 日本の酪農の約9割が牛舎で飼う舎飼いであり、広大な草地を必要とするグラスフェッドの生乳自体が非常に少ないためです。生産量が限られるため、一部の高質スーパーや通信販売での取り扱いが中心となります。
Q. グラスフェッドバターの保存で気をつけることはありますか?
A. 他の食品のにおいが移りやすいため、開封後は密閉できる容器に入れるか、ラップでしっかりと包んで冷蔵庫で保存してください。使う分だけ切り出し、残りはすぐに冷蔵庫に戻すことで風味が長持ちします。
Q. グラスフェッドバターの黄色い色は着色料ですか?
A. 着色料ではありません。牛が食べた青草に含まれるβ-カロテンという色素が乳脂肪に移行したものです。そのため、青草を食べる夏の間に作られたバターは黄色みが強くなります。
関連する用語
この記事はミルクデザイン株式会社が作成しています。北海道紋別郡西興部村で、萩原牧場のグラスフェッド生乳から牛乳・ヨーグルト・バター・チーズ・アイスクリーム・ソフトクリームを製造しています。


