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A2ミルクはどこで、どうやって検査するのか

  • 8月18日
  • 読了時間: 9分

更新日:8月20日

A2ミルクの検査対象は、牛乳ではなく牛そのものです。「この牛乳はA2です」という表示の裏側には、必ず1頭ごとの遺伝子検査台帳が存在します。牧場で牛の毛根や血液を採取し、遺伝子を調べることからすべてが始まります。



牛乳の成分を測る前に、牛の遺伝子を1頭ずつ調べる


スーパーの棚に並ぶ牛乳の成分表示には、脂肪分やカルシウムの量が書かれています。これらの数値は、工場に届いたタンクの牛乳を機械で分析すればすぐに分かります。しかしA2ミルクの検査は、牛乳を搾るずっと前の段階から始まります。検査の対象は液体としての乳ではなく、牧場にいる牛の個体そのものです。

牛がA1型とA2型のどちらのβカゼインを作るかは、生まれ持った遺伝子で決まります。毛の色や体格から判別することは絶対にできません。牛乳を搾ってタンクに集めてからA1型が混ざっていることに気づいても、群れのどの牛が原因かを後から突き止めるのは不可能です。そのため、牧場ではまず牛の耳片、毛根、血液などを採取する作業から始めます。牛の耳につけられた個体識別の黄色いタグの番号と台帳を慎重に照らし合わせ、記録をとります。間違いがないことを確認したうえで、牛を安全な枠の中に固定し、しっぽの毛を毛根ごと引き抜いたり、獣医師が首の血管から採血したりして、遺伝子の情報が詰まった細胞のサンプルを集めとるのです。

採取したサンプルは検査機関に送られ、牛1頭ごとの遺伝子型が調べられます。その結果をもとに、A2型の遺伝子だけを持つ牛を選び出します。牧場はこの台帳に従って牛の群れを分け、A2型の牛だけで生活する牛舎や放牧地を新たに用意します。牛乳という液体を分けるのではなく、牛の生活空間そのものを完全に分けるというアプローチです。エサを食べる場所も、水を飲む水槽も、すべてを別々に管理します。この徹底した個体管理の台帳を作ることが、A2ミルクを生産するための最初の関門になります。



遺伝子の暗号を読み解き、A1型とA2型を判別する


検査機関に届いた毛根や血液からは、牛の遺伝物質が抽出されます。日本A2ミルク協会の認証制度では、東京農業大学の庫本高志教授が開発した方法が採用されました。実際の検査業務は、株式会社エージーティーシー(静岡県浜松市)を中心に行う体制となっています。

ここで使われるのは、タカラバイオの遺伝子増幅技術を応用した遺伝子型判定法という手法です。遺伝物質には、タンパク質を作るための設計図が塩基配列として書き込まれています。この配列の中で、アミノ酸を指定する3つの塩基のまとまりをコドンと呼ぶのが科学のルールです。βカゼイン遺伝子の特定の場所にあるコドンを機械で読み取っていきます。

ここがプロリンというアミノ酸を指定する「シトシン・シトシン・チミン」という塩基の並びであれば、その牛はA2型です。一方、ヒスチジンというアミノ酸を指定する「シトシン・アデニン・チミン」という塩基の並びであれば、A1型に分類されます。3つの塩基のうち、真ん中の物質が「シトシン」か「アデニン」かという、たった1つの違いしかありません。長い遺伝子の暗号の中で起きたこのごくわずかな違いによって、最終的に乳腺で作られるタンパク質の立体的な形が変わってしまいます。特殊な試薬と機械を使ってこの1文字の違いを正確に検出し、牛の遺伝子型を確定させる仕組みです。この判別が終わって初めて、その牛から搾る乳がA2ミルクとして認められる条件が整います。牛の選別が完了したら、次は実際の製造現場での確認作業に移るという手順を踏みます。



出荷される牛乳にA1型が混ざっていないかを確認する


牧場でA2型の遺伝子を持つ牛だけを集めても、それだけで完璧なA2ミルクが完成するわけではありません。酪農の現場では、牛の乳首に取り付ける搾乳機、牛乳を冷やすバルククーラーと呼ばれる大型タンク、そして工場へ運ぶ集乳車など、さまざまな機材を活用します。もし別の群れの牛の乳が配管の継ぎ目やバルブの隙間にわずかでも残っていれば、そこを通過する新しい牛乳にA1型が混入してしまいます。毎日の洗浄作業を徹底していても、目に見えないレベルのタンパク質を完全にゼロにし続けるのは至難の業です。

そのため、遺伝子を調べるだけでなく、出荷される牛乳そのものにA1型βカゼインが混じっていないかを調べる検査も存在します。ここでは遺伝子の暗号ではなく、牛乳という液体の中に溶け込んでいるタンパク質を直接探します。日本A2ミルク協会の認証では、サンドイッチ酵素免疫測定法という仕組みが使われます。

この検査法は、東京農業大学の庫本教授と重井医学研究所の松山誠氏らが共同開発したものです。日本A2ミルク協会は、これを「日本初の検査法(特許申請中)」としています。牛乳という水分や脂肪が混ざり合った複雑な液体の中から、目当てのタンパク質だけを確実に見つけ出すために、抗体という物質の性質を利用します。抗体は、特定の形をした物質にだけぴったりと結合する鍵と鍵穴のような性質を持っています。どのようにして特定のタンパク質を捕まえるのでしょうか。



日本の認証制度で使われる定期的な抗体検査の仕組み


サンドイッチ酵素免疫測定法は、特定の標的だけを狙って結合するモノクローナル抗体を2種類使います。まず、βカゼイン全般に結合するモノクローナル抗体を用意します。次に、A1型のβカゼインだけにしか結合しないモノクローナル抗体を準備します。

検査用のプレートに牛乳を垂らすと、まず1つ目の抗体が牛乳中のβカゼインをしっかりと捕まえます。そこに2つ目の抗体を流し込みます。もし牛乳の中にA1型が存在していれば、2つの抗体に上下から挟み込まれる形になります。この挟まれた状態になると、最後に追加する特殊な試薬が反応して液体の色が変わる仕組みです。色が濃く変化すればするほど、A1型が多く含まれている証拠になります。この色の変化を人間の目で確認したり、光の吸収具合を測る専用の機械で数値化したりすることで、A1型の有無を正確に判定できるのです。

日本A2ミルク協会の認証を受けた農場と牛乳工場では、この検査が月1回の頻度で義務づけられています。農場の生乳タンクと、工場の製造ラインの両方で定期的に監視を行います。毎日の洗浄作業を行っていても発生しうるヒューマンエラーや、機材の死角による混入を防ぐための仕組みです。こうした厳格な運用によって品質を保っていますが、国内で行われている検査方法はこれだけではありません。



民間の受託分析や学術研究における多様な検査アプローチ


A2ミルクの検査は、特定の認証制度の中だけで行われているわけではありません。国内の受託分析会社でも、独自の検査を受けられます。株式会社日本食品遺伝科学が提供する「A2ミルク純度検査」もその一つです。

この検査では、生乳500mL以上を試料として使います。牛乳の大部分は水分と脂肪とタンパク質ですが、その中には牛の乳腺細胞などの体細胞がわずかに浮遊しています。牛乳を高速で回転させる遠心分離機にかけると、重い細胞成分だけが底に沈殿します。そこから特殊な薬品を使って遺伝物質をきれいに抽出し、特定の試薬を用いたリアルタイム遺伝子増幅法という手法で分析します。温度を上げ下げしながら目的の遺伝子だけを何百万倍にも増やしていく過程で、光の強さを測定して量を計算します。これにより、牛乳の中に残っている細胞からA1型βカゼイン遺伝子の推定混入量を算出する仕組みです。公開されている情報に基づくと、標準の所要日数は3営業日、価格は30,000円(税別)です。

学術の世界ではさらに別の方法も研究されています。2023年のモレキュールズ誌では、タンパク質そのものを液体クロマトグラフ質量分析で直接測る方法が報告されました。この研究における検出下限は、A1が0.22 mg/mL、A2が0.18 mg/mLです。この質量分析法は高度な分析機器を使う研究段階の手法であり、日本の認証制度で使われている方法ではありません。検査の技術は、目的に応じて複数の選択肢が存在します。



パッケージの表示は、牛と牛乳の両方を調べた結果である


スーパーの冷蔵ケースで「A2ミルク」のパッケージを手に取るとき、そこには長い検査の道のりがあります。牧場での毛根や血液の採取から始まり、遺伝子の暗号解読による牛の特定が行われます。さらに、搾乳から工場でのパッケージングに至るまで、牛乳そのものの定期的な抗体検査が繰り返されます。

1頭ごとの遺伝子を調べる個体管理と、月1回の抜き打ちのような製品検査。この2段構えの確認作業が、商品の土台を作っています。検査対象が乳であると同時に牛でもあるという事実が、この牛乳の特殊な立ち位置を示しているのです。パッケージに印刷された文字は、単なる成分表示ではなく、牧場の牛舎の分け方から工場のタンクの運用までを貫く管理体制の証明として機能しています。

毎朝のトーストに合わせる1杯の牛乳の背景には、細胞レベルでの確認と、タンパク質を挟み込む化学的な監視が積み重なっています。次に売り場でその文字を見かけたときは、牧場の牛1頭1頭にまで遡る緻密な台帳の存在を思い浮かべてみてください。



よくある質問


Q. 検査でA1型が検出されない限界値(定量下限)はどのくらいですか。 日本A2ミルク協会やJミルクの公表資料には、A1型混入の検出限界値や定量下限(何%まで検出できるか)を示す数値の記載はありません。そのため、現在の公表情報から具体的な数値を断定することはできません。


Q. 牧場はすべての牛を検査しなければならないのですか。 A2ミルクとして生乳を出荷する群れに入れる牛は、事前にすべて遺伝子検査でA2型であることを確認します。牧場内にA1型の牛が残っていても構いませんが、搾乳のタイミングや生活空間を完全に分け、牛乳が混ざらないように管理する必要があります。


Q. 検査にかかる費用は誰が負担しているのですか。 基本的には、A2ミルクを生産・販売しようとする牧場や乳業メーカーが検査費用を負担します。牛の全頭検査や毎月の定期検査には相応のコストがかかるため、それが商品の価格に反映される構造になっています。


Q. 遺伝子検査の結果は牛の成長途中で変わることはありますか。 変わりません。A1型かA2型かというβカゼインの遺伝子型は、牛が生まれたときから持っている遺伝子の配列で決まります。成長過程や食べるエサ、飼育環境によって後から遺伝子が変化することはありません。


Q. 海外のA2ミルクも日本の認証と同じ方法で検査されていますか。 同じとは限りません。日本A2ミルク協会の認証制度で採用されている検査法は、国内の研究者が開発した独自の手法です。海外では各国の機関や企業がそれぞれの手法で検査を行っており、世界共通の唯一の検査方法が存在するわけではありません。



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この記事はミルクデザイン株式会社が作成しています。北海道紋別郡西興部村で、萩原牧場のグラスフェッド生乳から牛乳・ヨーグルト・バター・チーズ・アイスクリーム・ソフトクリームを製造しています。

 
 
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