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流通しない幻のグラスフェッドミルク



国産グラスフェッドミルクは探しても手に入らない希少な存在です。その背景には、酪農経営と流通の2つの理由が隠されています。



珍しい「放牧&牧草」酪農

日本人が酪農をイメージする時、心に浮かぶのは広い草原でゆっくりと草を食む牛の姿ですが、実はこれは珍しい光景なのです。牛乳パックやバター、チーズのパッケージに、放牧の絵が描かれていますので、その姿が当然と思われるのも無理はありません。しかし、日本での酪農の中心は、牛舎の中で飼って、トウモロコシなどの「穀物」を餌として与える方です。だからこそ、放牧して牧草で育てるみんなのイメージ通りの酪農は珍しいのです。


牛舎の中で牛を飼って穀物を餌として与える理由は、牛乳の生産効率が高いためです。牛舎の中で牛を飼えば狭い場所でも酪農が可能となります。また、穀物は牧草よりもカロリーが高く搾乳量が増加します。したがって、「牛舎のつなぎ飼い&穀物飼料」は、日本の狭い国土の中で大量の牛乳を生産するために最も優れた方式であり、日本では一般的な酪農のスタイルとなっています。逆に、あえて「放牧&牧草」で牛乳を生産している酪農家は少数派となっている結果として、グラスフェッドミルクに希少性があるのです。




消えるグラスフェッドミルク

さらに、乳製品の製造の段階で、グラスフェッドミルクが消えてしまうという現象が起きるために、グラスフェッドミルクの希少性がますます高まります。


乳業メーカーが酪農家から牛乳を集荷する際、グラスフェッドミルクかどうかは、事実上無視されています。メーカーは牛乳タンクを積んだトラックで各酪農家を回って牛乳を集めるのですが、その際に酪農の方法に関係なく、牛乳を同じタンクに入れてしまいます。そのタンクの牛乳を工場に運んで殺菌してパック詰めして飲用乳にしたり、チーズにしたり、脱脂粉乳にして一般消費者に届けるのです。言い代えれば、地域の牛乳が同じタンクに集められるため、製品になった段階ではグラスフェッドとして存在していないのです。


その背景には、牛乳の買い取り価格(乳価※)が乳量によって決まるという制度があります。乳価は1㎏当たり何円と一律に決められており、どのように牛を育てたか、どのような牛乳なのかに関係ありません。生産した牛乳の量にしたがって酪農家に代金が支払われます。ですので、乳業メーカーもグラスフェッドミルクをあえて別扱いにする必要がないのです。


このように、そもそもグラスフェッドミルクを生産する酪農家が少ないうえに、乳業メーカーが牛乳を引き取る際に他の酪農家の牛乳と区別しないため、国産のグラスフェッドミルクは「幻のミルク」となってしまうのです。


地域の酪農家のもとで生産されたミルク(生乳)は、酪農家が会員の指定生乳生産者団体(指定団体)を通じて複数の乳業メーカーに販売します。乳価は乳業メーカーと団体の合意によって決められます(一般社団法人日本乳業協会ホームページをご参照下さい。https://www.nyukyou.jp/support/farming/index03.html)。


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