top of page

見直される国産‐グラスフェッド酪農

更新日:1月6日

物価上昇が社会問題となる中、酪農も例外ではなく、飼料や肥料の価格上昇、さらに軽油・ガソリン・電力の価格上昇が経営を圧迫しています。この状況を受けて、短期的には政府の物価対策が期待される一方で、「持続可能な酪農」や「食料安全保障」の観点から、グラスフェッド酪農が改めて注目されてきています。



<北海道西興部村 萩原牧場の風景 2022年7月>


輸入飼料が支える酪農の現状

生乳の生産量が全国の半分を占め酪農王国と言われる北海道のイメージは、広い牧草地で草を食む牛の姿です。しかし、現実には1970年ころから北海道でも生乳(搾りたてのミルク)の量を増やすために、牛に牧草ではなく配合飼料を多く与えるようになりました。配合飼料はトウモロコシや麦、大豆などの穀物を混ぜた飼料です。草よりも穀物の方がカロリーが高いので、生乳量を増やすにはうってつけです。


また、酪農家にとっても、購入した飼料を牛に与える形にすれば、自分で牧草を育てる手間(大変な手間)が省けます。このような省力化により、これまでと同じ牧場の面積とマンパワーで、より多くの牛を飼うことができますので、生乳の生産量が格段に上がります。


その結果として、広大な大地がイメージされる北海道でも、牛を牛舎内で配合飼料を与えて育てる「舎飼い」方式が、酪農全体の9割を占めています。逆に、イメージ通りの「放牧して牧草で育てる酪農」は全体の1割にとどまっているのが現状です。


ちなみに、舎飼いでも草地で刈った草を与えていますが、それでも北海道の飼料自給率は5割程度にとどまっており、大量の飼料を海外から輸入して牛に与えているのが実情です。


多くの酪農経営を圧迫する物価上昇

そして今、ウクライナ問題を契機に飼料価格が大幅に上昇しています。全国農業協同組合連合会(JA全農)は今年6月、4~6月期に1トン当たり79,000円だった飼料価格を、7~9月期については11,400円(14%)値上げすると発表しました。従来の最大の値上げ幅が昨年4~6月期の5,500円だったことを考えると、今回の値上げが多くの酪農家にとって大きな痛手となっていることは想像に難くありません。


この苦境に対して、国を中心に価格の激変に対応するべく酪農家に費用補填をする仕組みが活用されるなど、当面は政策対応に期待がかかります。ただ、趨勢的に飼料や肥料の価格が上昇している状況が変わらない限り、酪農経営に対する将来的な不透明感が払しょくできないことも事実です。



その背景には、飼料の需給に関する構造的な問題が存在しています。まず、需要サイドでは、世界経済第2位で14億人の人口を抱える中国が、飼料の輸入国に転じています。また、アジアなどでも、所得向上で乳製品を求める消費者が増えることを通じて、飼料への需要も拡大します。


一方、供給サイドでは、主な飼料の生産地である北米、南米、オーストラリアの輸出余力に限界があります。その背景には、国内需要の拡大に加えて、気候変動(気温上昇)による山火事や渇水などで、穀物生産が不安定となっている状況があります。


加えて、燃料代(原油価格)や人件費を含む物流費の上昇が、飼料価格の値上がりに拍車をかけています。特に、遠いブラジルなどからの輸入する際には、船賃やコンテナ価格の上昇が飼料価格に大きく響きます。


その他にも、化石燃料への開発投資削減によるエネルギー価格の上昇、世界人口の増加、グローバル経済の変調(ブロック化への警戒)などが、構造問題として挙げられます。


そうした中で、ロシアとウクライナの問題が勃発したことにより、飼料価格が一旦大きく跳ね上がりました。世界の穀倉地帯であるウクライナの穀物供給や、ロシア産の原油・天然ガスの供給が不透明感を強めていることが影響しています。


もっとも、直近でウクライナの穀物輸出についてロシアと合意が成立したとの報道があるなど、足下では飼料価格の上昇に歯止めがかかるとの期待もあります。ただ、中長期的にみれば、先述の構造問題が解決されない限り、飼料価格の趨勢的な上昇傾向が続く可能性は残ります。


「国産」としてのグラスフェッドの見直し

このように、北海道の酪農とは縁遠いように見える気候変動、世界人口増加、グローバル経済の変調などが、酪農経営に対する「目の前の危機」になり始めています。この状況を受けて、日本政府は6月に閣議決定した「骨太の方針」に、いわゆる「食料安全保障」政策を盛り込みました。


骨太の方針として政府は、日本の食料や農業が「輸入に大きく依存してきた中で、世界の食糧需給等を巡るリスクが顕在化している」との認識を示しています。その上で対策として、国産の飼料や小麦、米粉の生産拡大を盛り込んでいます。


政府がこのような食料安全保障を打ち出したことを受けて、酪農に関係する人々や組織の間で、グラスフェッド酪農に注目する向きが増えていることは確かです。これまで舎飼いに比べて生産性が劣るとの評価により、軽視されがちだったグラスフェッド酪農(牧草と放牧で育てる酪農)が食料安全保障のカギになると、見直しが始まったように映ります。


確かに、世界情勢や地球環境への見通しが難しくなる中、酪農においても生産性や効率性だけを正義とすることはもはや現実的ではありません。現在は「持続可能な食料生産」や「食料安全保障」の観点がより重視される時代に入ってきており、それがマッチするモデルがグラスフェッド酪農でしょう。


多くの人がイメージする北海道の酪農の姿(大地で牛が草を食む)こそが、未来の日本にとって必要な姿ではないでしょうか。

Comments


Commenting has been turned off.
bottom of page