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食料安保のための農林水産物の輸出拡大

日本の農林水産物の輸出は急速に伸びているものの、輸入額が圧倒的に大きい状況に変化はありません。この状況を受けて食料安全保障の観点から、農林水産物の輸出能力の一段の向上が期待されます。


 

農林水産物の輸出好調

2021年の農林水産物の輸出額は前年比25.6%増と大幅な伸びで1兆1,629億円を記録し、政府が従来目標としていた1兆円の大台を突破しました。内訳は、農産物が8,043億円、水産物が3,016億円、林産物が570億円でした(※1)。


ちなみに、政府は平成25年(2013年)に閣議決定された「日本再興戦略」において、農業・農村所得倍増のため、2020年に農林水産物・食品の輸出目標(2012年当時は4,497億円)を1兆円と設定していました。

 ※1:農林水産省HP「農林水産物の輸入・輸出に関する統計」より


特に、5年前の2016年の輸出額が7,502億円でしたので、2021年(1兆16,29億円)までのわずか5年で4,127億円(35%)増加したことになります。年率(複利)では9.1%の高い成長率を示しており、農林水産物の輸出は絶好調と言える状況です。


これを受けて政府はさらに高い輸出目標を掲げています。2021年12⽉に「農林⽔産物・⾷品の輸出拡⼤実⾏戦略」を改訂し、輸出額を2025年までに2兆円、2030年までに5兆円という高い⽬標の達成に向けて、輸出先国・地域海外の規制やニーズに対応したマーケットイン輸出を推進する方策を提示しました(同戦略は2022年5月にさらに改訂)。


農林水産物の輸入は輸出の10倍

そうした中、農林水産物の輸入額に目を転じると、こちらも大幅拡大し、2021年に10兆円の大台に乗せています。輸出額のほぼ10倍に達しているのです。輸出額は前年比14.3%増の10兆1,656億円となり、その内訳は、農産物が7.0兆円、水産物が1.6兆円、林産物が1.5兆円です。


もちろん、自由貿易ないしグローバル経済の観点では、国内消費者のし好や経済的メリットにより農林水産物の輸入が拡大することが悪いことではありません。ただ、それにより国内の農林水産物の供給能力が縮小する現象が起きれば、食料安全保障の観点で問題があります。


その解決策の一つは、国内生産者の国際競争力(輸出力)を高めることを通じて、農林水産物の国内生産能力を維持・拡大することです。国際競争力のある製品は、輸出拡大だけでなく、国内消費者への販路拡大を通じて、カロリーベースで38%にとどまる食料自給率の向上にもつながるはずです。


輸出拡大政策は食料安保につながる

したがって、日本政府が高い輸出目標(2025年までに2兆円、2030年までに5兆円)を掲げて、この問題に意欲的に取り組む姿勢に期待がかかります。


とりわけ、この課題解決が急がれるのは、気候変動(干ばつや洪水など)やウクライナ問題などを契機に、グローバル経済への不透明感が生じているからです。言い換えれば、これまでのように、お金を出せば世界から必要なモノは買えるという状況が、今後も完全に維持される保障がないからです。この面では、食料安全保障の問題は、半導体の供給などに関する経済安全保障の問題と同じ構図と言えるでしょう。


課題解決のために一つの道筋として、政策が呼び水になり、農林水産物の輸出能力が高まり、農林水産業が高い付加価値を生む産業に変わることで、業界への新規参入を促し、さらに生産能力と付加価値創造力が高まるという正のスパイラルが起きることが期待されています。








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