プロテインの前に牛乳
更新日:8月22日
「筋肉に効くのは特別な粉ではなく、『必須アミノ酸が足りているか』。牛乳1杯でその一部は満たせる——では粉は、どこで効くのか?」
「高タンパク」をうたう食品が棚を埋め、プロテインパウダーは日常の一部になった。筋トレでも健康づくりでも、いま最も意識される栄養素がタンパク質だろう。ではその「質」と「量」を、身近な牛乳や乳製品はどこまで満たせるのか。宣伝を外し、査読を経た論文だけを頼りに、順を追って確かめてみる。
結論の方向から言えば、乳タンパクは「質」の評価が高いタンパク源の一つだと報告されている。必須アミノ酸をバランスよく含み、消化吸収まで加味したタンパク質の質の指標でも、乳由来タンパクは大豆やえんどうなど植物性タンパクを上回るとされる[1]。しかも牛乳は特別な加工をしなくても、コップ1杯で一定量のタンパク質と必須アミノ酸をまとめて摂れる。「手軽で質が高い」と語られやすいのはこのためだ。ただし「飲めば筋肉が増える」ほど単純ではなく、効き方には条件がつく。
なぜ「乳」は筋肉づくりに向くのか
理由は大きく三つある。第一は、アミノ酸の中身。乳タンパクは必須アミノ酸をバランスよく含み、質の指標でも植物性タンパクを上回るとされる[1]。とりわけ筋タンパク合成の引き金になりやすいロイシンを含む点が注目される。第二は、消化の速さ。牛乳のタンパクは、速く吸収されるホエイと、ゆっくり吸収されるカゼインに大別される。若い男性でホエイ・カゼイン・大豆を比べた研究では、運動後の筋タンパク合成はホエイがカゼインより約122%、大豆より約31%高く、その差はロイシン量や消化の速さと関係する可能性が指摘された[3]。速効性のホエイと持続性のカゼイン——異なる二つを一杯で併せ持つのが牛乳の特徴だ。実際、運動後に牛乳を飲むと脚の筋でアミノ酸の取り込みが正味プラスに転じたと報告されている[2]。第三は、身体そのものの変化。筋トレ初心者の男性が12週間、運動直後に無脂肪乳・大豆飲料・糖質のいずれかを摂った試験では、牛乳群で除脂肪量とⅡ型筋線維の増加が最も大きかった[4]。とはいえ、短期の合成反応や単一の試験だけで長期の筋量増加を断定はできない。だからこそ次に、複数の試験を束ねた結果を確かめる。
筋トレとタンパク質補給の効果を、49のランダム化比較試験(計1863人)でまとめたメタ解析では、タンパク質の追加摂取が除脂肪量を平均0.30kg、最大挙上重量を2.49kg押し上げた。ただし総タンパク質が1日あたり体重1kgにつき約1.62gを超えると、それ以上増やしても上乗せは見られなかった[5]。中高年を対象に乳タンパクを調べた14試験のシステマティックレビューでも、四肢の筋量はわずかに増えた(+0.13kg)一方、握力や脚の筋力には有意な差が出なかった[6]。いずれも複数の試験を統合した確度の高い証拠だが、効果量は小さく個人差もある。効果は「ある」が「万能」ではない、というのが現時点の到達点だ。
じゃあ、何を選べばいい?
まず押さえたいのは、特定の食品より「1日の総タンパク質量」だということ。ここが満たされて初めて、種類やタイミングの差が意味を持つ。「多く摂るほど増える」わけではなく、必要量を超えれば伸びは頭打ちになるため、まず不足していないかを見直すのが先だ[5]。粉末プロテインは総量を手軽に足す道具にすぎず、それ自体に特別な力はない。牛乳・ヨーグルト・チーズは、必須アミノ酸がそろい、水分やカルシウムも一緒に摂れる「食品としてのタンパク源」で、粉に頼る前に選べる現実的な一手になる。乳糖が合わない人は、ヨーグルトやチーズ、量の調整で対応できる。家族にはこう言える——「特別な粉より、まず食事とコップ1杯の牛乳から」。
関連する用語
出典
Mathai JK, Liu Y, Stein HH. Values for digestible indispensable amino acid scores (DIAAS) for some dairy and plant proteins may better describe protein quality than values calculated using the concept for protein digestibility-corrected amino acid scores (PDCAAS). Br J Nutr. 2017;117(4):490-499. doi:10.1017/S0007114517000125(PMID: 28382889)
Elliot TA, Cree MG, Sanford AP, Wolfe RR, Tipton KD. Milk ingestion stimulates net muscle protein synthesis following resistance exercise. Med Sci Sports Exerc. 2006;38(4):667-674. doi:10.1249/01.mss.0000210190.64458.25(PMID: 16679981)
Tang JE, Moore DR, Kujbida GW, Tarnopolsky MA, Phillips SM. Ingestion of whey hydrolysate, casein, or soy protein isolate: effects on mixed muscle protein synthesis at rest and following resistance exercise in young men. J Appl Physiol (1985). 2009;107(3):987-992. doi:10.1152/japplphysiol.00076.2009(PMID: 19589961)
Hartman JW, Tang JE, Wilkinson SB, et al. Consumption of fat-free fluid milk after resistance exercise promotes greater lean mass accretion than does consumption of soy or carbohydrate in young, novice, male weightlifters. Am J Clin Nutr. 2007;86(2):373-381. doi:10.1093/ajcn/86.2.373(PMID: 17684208)
Morton RW, Murphy KT, McKellar SR, et al. A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. Br J Sports Med. 2018;52(6):376-384. doi:10.1136/bjsports-2017-097608(PMID: 28698222)
Hanach NI, McCullough F, Avery A. The Impact of Dairy Protein Intake on Muscle Mass, Muscle Strength, and Physical Performance in Middle-Aged to Older Adults with or without Existing Sarcopenia: A Systematic Review and Meta-Analysis. Adv Nutr. 2019;10(1):59-69. doi:10.1093/advances/nmy065(PMID: 30624580)
この記事はミルクデザイン株式会社が作成しています。北海道紋別郡西興部村で、萩原牧場のグラスフェッド生乳から牛乳・ヨーグルト・バター・チーズ・アイスクリーム・ソフトクリームを製造しています。


