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A2ミルクとライセンス ── 誰が権利を持っているのか

  • 8月18日
  • 読了時間: 9分

更新日:8月19日

日本国内でA2ミルクの認証制度が運用され始めたことで、A2ミルク協会という存在に目が向くようになっています。A2ミルクという言葉には、牛の遺伝子に関する科学の顔と、知財やライセンスに関わるビジネスの顔があり、この二つが混ざったまま語られてきたことが、この分野の話をわかりにくくしてきました。A2ミルクを生産するための根幹の特許はすでに満了しており、現在の日本の酪農家や乳業メーカーは誰の許可を得ることもなくA2ミルクを作ることができます。



A2ミルクという言葉は、牛が生まれつき持つ遺伝子のタイプによる分類である


スーパーの棚でA2ミルクのパッケージを見かける機会が増えてきました。牛乳に含まれるタンパク質は、大きくカゼインとホエイに分かれます。そのうちカゼインの大部分を占めるのがβカゼインという成分です。このβカゼインの構造の違いによって、牛乳はA1とA2に分類されます。これは工場で人工的に作り出した成分の名前ではありません。牛が生まれつき持っている遺伝子のタイプによる、純粋な科学的分類です。

タンパク質はアミノ酸が長く連なってできています。A1とA2の違いは、その長い連なりのうちのたった一箇所のアミノ酸が異なっているだけです。大昔の牛はすべてA2タイプの遺伝子を持っていたとされています。しかし長い歴史の中で突然変異が起き、A1タイプの遺伝子を持つ牛が現れました。現代の一般的な乳牛は、A1とA2の遺伝子を両方持っている牛、A1だけを持つ牛、A2だけを持つ牛が混在しています。牧場で飼われている牛の群れには、さまざまな遺伝子のタイプが入り混じっているのが普通です。

A2タイプの遺伝子だけを持つ牛から搾った乳には、A2型のタンパク質だけが含まれます。この牛乳を一般にA2ミルクと呼ぶのが現在の共通認識です。科学の分野で発見されたこの自然の分類は、やがて特許という制度を通じて、ビジネスの枠組みの中に組み込まれていくことになります。牛の個性を生かしただけの牛乳が、なぜライセンスという言葉と結びついて語られるようになったのでしょうか。



過去のA2ミルクは特許に基づくライセンス契約によって作られていた


A2ミルクの歴史を紐解くと、一つの企業が持つ特許の存在に突き当たります。ニュージーランドを拠点とする企業が、A2ミルクに関する中核的な特許を取得し、知財を基盤としたビジネスを展開していました。

公的な記録をたどると、その特許の実態が見えてきます。欧州特許は「非糖尿病誘発性の乳またはその製品を選択する方法」という名称で、優先日が1994年11月4日となっています。また、米国特許は「A1βカゼインを含まない乳のための牛の育種と搾乳」という名称で、優先日は1995年5月16日です。これらの特許は、特定の成分を含まない牛乳を得るために牛の遺伝子を調べ、選び出し、搾乳するという一連の方法そのものを権利として押さえるものでした。

特許を持っていた企業は、自ら牛乳を生産するだけでなく、他の生産者に対してライセンス契約を結ぶという手法をとりました。ニュージーランドの公正取引当局が2003年11月21日に出した公式の発表文には、広告表現の是正に応じた相手として、特許を持つ企業と並んで「そのライセンスを受けたA2生産者」という言葉がはっきりと記されています。

生産者は特許を持つ企業と契約を結び、その管理下でA2ミルクを作り、販売していました。このライセンス方式というビジネスの形態が、A2ミルクは特定の誰かの権利物であるという印象を長く残すことになります。では、その特許は現在どうなっているのでしょうか。



中核となる特許はすでに満了している


かつて世界のA2ミルク生産を縛っていた特許は、現在すでに効力を失っています。特許には期限があり、永遠に一つの企業が独占できるわけではありません。

欧州特許は2015年11月3日に満了を迎えました。そして米国特許も、2016年5月13日に満了しています。特許のステータスは失効となっており、A2ミルクを生産する仕組みは知財の壁を越え、世界の共有財産になりました。

特許が切れたということは、日本の酪農家が自分の牧場の牛を検査し、A2タイプの牛だけを集めて牛乳を搾り、それをA2ミルクとして販売するのに、海外の企業とライセンス契約を結ぶ必要が一切ないことを意味します。牛群をA2タイプに入れ替えるための種牛の選定も、毎日の搾乳のオペレーションも、すべて日本の牧場の自由な裁量で行うことができます。

権利の壁がなくなったことで、日本国内でも多くの牧場や乳業メーカーがA2ミルクの生産に乗り出すことができるようになりました。特許を根拠にしたライセンス契約の時代は終わり、牛乳の選択肢の一つとして市場に並ぶようになりました。しかし、作り手が増えるからこそ、本当にそれがA2ミルクであるかをどう証明するかという新しい課題が生まれました。



国内の検査体制が整ったことで、日本独自の認証制度が動き出している


A2ミルクを作るには、牛一頭一頭の遺伝子を調べるだけでなく、搾った牛乳の中にA1型のタンパク質が混ざっていないことを確認する検査が欠かせません。日本国内でこの検査と認証の体制が本格的に整ったのは、2020年代に入ってからのことです。

牛乳という複雑な成分を持つ液体の中から、アミノ酸の配列がわずかに違うだけのA1型タンパク質を正確に見つけ出すのは、高度な技術を要します。国内の検査体制は、以下のステップを踏んで確立されました。


  • 2023年、東京農業大学と重井医学研究所が、酵素を用いた免疫測定法という新たな検査手法を共同開発します。

  • この手法により、牛乳の中の微量なA1型タンパク質を国内の機関で正確に分析できる環境が整いました。

  • 2024年1月、日本A2ミルク協会による独自の認証制度の運用が開始されました。


検査の手法が確立され、それに基づく認証の仕組みが動き出したことで、日本のA2ミルク市場は新しい段階に入りました。海外の特許に依存するのではなく、国内の科学的知見に基づいた品質管理の枠組みが機能し始めたのです。自分の目で確かめられる基準が、売り場にも並ぶようになりました。



パッケージのマークは、品質の保証ではなく検査を通過したという目印として機能する


スーパーの棚に並ぶA2ミルクのパッケージには、協会の認証マークがついているものと、ついていないものが混在しています。このマークは、牛乳の美味しさや栄養価の高さを保証するものではありません。

認証マークが示しているのは、その牛乳が指定された検査機関で分析を受け、その牛乳がA2A2型の牛から搾られ、A1が混ざらないよう管理されていることを、定期的な検査を含む仕組みで確認したという事実です。これは、消費者が商品を選ぶ際の一つの目安です。第三者機関の証明があることで、流通に関わるバイヤーや消費者にとってもわかりやすい基準として機能します。

一方で、マークがついていないからといって、それが偽物のA2ミルクだとは限りません。牧場や乳業メーカーの中には、独自のルートで厳格な遺伝子検査や生乳の分析を行い、自社の責任においてA2ミルクとして販売しているところもあります。冷蔵庫に並ぶ牛乳の背景には、それぞれの作り手が選んだ品質証明の形があります。

認証制度を利用して第三者の証明を得るか、自社の看板と検査データで品質を担保するかは、作り手の判断に委ねられています。どちらの形であっても、A1が混ざらないことを確認する工程を経ていることに変わりはありません。



科学の事実とビジネスの仕組みを分けて見ると、売り場の景色が変わる


A2ミルクという存在は、牛の遺伝子という自然の仕組みから始まり、特許とライセンスというビジネスの時代を経て、現在は国内の検査と認証という新しい枠組みの中にあります。

この歴史を知ると、パッケージに書かれた文字の意味が立体的に見えてきます。それは誰かの権利物ではなく、牛の個性を生かした牛乳の一つの形です。そして、その品質を証明するために、日本の研究者たちが検査の手法を確立し、新しい基準を作り上げてきました。

科学の事実とビジネスの仕組みの境界線を引くことで、情報に振り回されることなく商品に向き合うことができます。特許の満了によって自由になった市場で、日本の酪農家たちは独自の工夫を凝らして牛乳を作り出しています。朝のトーストと一緒に飲む一杯の牛乳を選ぶとき、パッケージの向こう側にある歴史と仕組みに目を向けてみてください。



よくある質問


Q. A2ミルク協会とはどのような組織ですか

日本国内でA2ミルクの普及や品質の基準づくりを行っている団体です。2024年1月から、牛乳にA1型のタンパク質が混ざっていないかを定期的に検査で確認する独自の認証制度の運用を開始しています。


Q. 日本の牧場がA2ミルクを作るのに海外企業の許可は必要ですか

必要ありません。A2ミルクの生産に関わる中核的な特許(欧州特許および米国特許)は、2015年から2016年にかけてすでに満了しています。ただし、名称の使い方や表示については別の権利や制度が関わるため、生産を検討する場合は個別に確認が必要です。


Q. 認証マークがついていないA2ミルクは偽物ですか

偽物とは限りません。認証制度は任意であり、マークの取得を義務付ける法律はありません。自社の責任と独自の検査体制に基づいて、マークをつけずにA2ミルクとして販売している牧場やメーカーも存在します。


Q. 日本国内でA2ミルクの検査はどのように行われていますか

2023年に東京農業大学と重井医学研究所が共同開発した、酵素を用いた免疫測定法などの分析手法を用いて行われています。これにより、牛乳にA1型のタンパク質が混入していないかを国内の機関で正確に調べることが可能になりました。


Q. A2ミルクを飲めばお腹がゴロゴロしませんか

牛乳でお腹が不調になる原因は人によって異なります。カゼインの構造の違いが影響している場合もあれば、乳糖という糖分を消化しきれない乳糖不耐が原因の場合もあります。体質に合うかどうかは個人差があるため、ご自身の体調を見ながら確かめる必要があります。


Q. 過去の特許はどのような内容でしたか

A1型のタンパク質を含まない牛乳を得るために、牛の遺伝子を調べて育種し、搾乳するという方法に関する特許でした。1994年および1995年に優先日を持つこれらの特許を背景に、かつてはライセンス契約のもとでA2ミルクが生産されていました。



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この記事はミルクデザイン株式会社が作成しています。北海道紋別郡西興部村で、萩原牧場のグラスフェッド生乳から牛乳・ヨーグルト・バター・チーズ・アイスクリーム・ソフトクリームを製造しています。

 
 
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