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A2ミルクは飲む以外に使えるのか ── チーズ・発酵・加工

  • 8月18日
  • 読了時間: 8分

更新日:8月19日

A2ミルクでチーズを作るとどうなるのか。議論はこれまで飲む場面に集中してきましたが、乳のタンパク質であるカゼインはチーズを固めるための成分でもあります。型の違いが最も物理的に現れるのは、実のところ飲む場面ではなく固める場面です。



カゼインの構造はチーズの固まり方を決める


A2ミルクの議論は、これまで「飲むとお腹がどうなるか」という消費者の体感に集中してきました。しかし、乳のタンパク質であるカゼインの本来の役割は、乳を固めることです。カゼインは生乳の中で、無数の小さな球の集まりとして水中に漂っています。チーズを作る際、温めた生乳にレンネットと呼ばれる酵素を加えると、この球の表面にある反発力が失われます。すると、水中に散らばっていたカゼイン同士が互いに手を結び、巨大な網目構造を作り始めます。この巨大な網目が水分や脂肪をしっかりと抱え込むことで、白い豆腐のような塊が生まれます。これがチーズの原型となるカードです。A1とA2の違いは、このカゼインを構成するアミノ酸の並び方のわずかな違いにすぎません。しかし、並び方が違えば、酵素に反応して手を結ぶ速さや、出来上がる網目の強さも変わってきます。飲む場面では見えなかったタンパク質の型の違いは、酵素を加えて固める場面で、物理的な硬さや量として目に見える形になります。型の違いが最も物理的に現れるのは、飲む場面ではなく固める場面です。



イタリアの試験はチーズ製造の効率低下を指摘する


A2型の乳でチーズを作るとどうなるかについては、査読論文の結論が真っ二つに割れています。一つの見解は、加工に向かないというものです。2025年に酪農科学の国際誌に掲載されたイタリアの試験では、実際のチーズ製造の現場で33回繰り返して検証を行いました。その結果、A2型の乳はA1/B型の乳と比べて、酵素を加えてから固まるまでの時間が2.8分長くなりました。さらに、熟成の前後を問わずチーズの収量が下がり、出来上がったチーズの硬さと弾力も低かったと報告されています。論文はここから「A2乳の使用はチーズ製造の効率と技術的性能を下げる」と結論づけました。工場で毎日大量のチーズを作る現場において、固まるのが遅く、同じ量の生乳から取れるチーズの量が減ることは、生産コストの増加に直結します。一日に何回転もさせる製造ラインにおいて、2.8分の遅れは積み重なれば大きな時間のロスになります。ただし、この試験はA2型だけを集めた乳と、A1型にB型という別のバリアントが混ざった乳を比較しています。純粋なA1対A2の比較ではない点には留意が必要です。



スペインの試験は逆に収量と硬さの向上を報告する


イタリアの報告とは正反対の結果を示す研究もあります。2022年に食品科学の国際誌に掲載されたスペインの試験です。この研究は公的資金によって行われ、特定の企業との利益相反がない中立的な状態で実施されました。検証の結果、A2乳のほうが固まった塊の硬度が高く、数値にして12.70対10.95という差が出ました。固まる速度も速く、最終的なチーズの収量も17.02%対12.89%と、A2乳のほうが多くのチーズを取ることができました。論文は「A2乳から酸凝固・レンネット凝固の乳製品を作ることは、対照乳と比べて大きな差なく可能である」と結論づけています。同じカゼインの型を調べながら、一方は収量が下がると言い、もう一方は収量が上がると報告しています。生乳は一定の規格で作られる工業製品ではありません。牛の品種、食べている草の種類、季節、さらには製造工程のわずかな温度差によって、成分が複雑に変動する生き物です。現時点の科学では、A2型であることがチーズの加工にどう影響するかについて、完全に統一された見解は出ていません。



ヨーグルトの食感は柔らかくクリーミーになる可能性がある


酵素で一気に固めるチーズに対し、乳酸菌が出す酸でゆっくりと固めるヨーグルトでも、型の違いが影響する可能性が指摘されています。ヨーグルトは、乳酸菌が糖を食べて乳酸を出し、その酸によってカゼインが沈殿して固まる仕組みです。A2型の乳で作ったヨーグルトのゲルは、弾性率が低くなるという報告があります。弾性率とは、スプーンを入れたときの跳ね返す力、つまり硬さの指標です。顕微鏡で見ると、より多孔質でタンパク質の鎖が細い微細構造になっていることが確認されています。Jミルクはこの報告を受け、A2ミルクはA1ミルクと比較して、柔らかくクリーミーなヨーグルトの製造に適している可能性があると整理しています。一方で、これは裏を返せば、しっかりとしたゲル強度を持つ、昔ながらの硬いヨーグルトを作るのには向かない可能性も考えられます。細かい網目を持つ柔らかい組織は、口の中でなめらかに解けますが、形を保つ力は弱くなります。ヨーグルトの硬さは食べる人の好みが分かれる部分であり、どちらが優れているというものではありません。とろりとした食感を求めるなら長所になり、スプーンですくって形が崩れない食感を求めるなら短所になります。



加工向け生乳の多い北海道では固まりやすさが死活問題になる


なぜ日本の乳業団体が、チーズやヨーグルトへの影響をこれほど注視しているのか。それは、生乳生産の半分以上を担う北海道の構造に理由があります。北海道で搾られた生乳の多くは、そのままパックに詰められるのではなく、バターやチーズといった加工品に回されます。遠く離れた消費地へ運ぶために、水分を抜いて保存のきく形に変える必要があるからです。Jミルクは、A2ミルクをチーズ製造に使用することは勧められないとする報告を紹介した上で、北海道の生乳の多くが加工向けであることを挙げています。そして「A2ミルクへの転換を進める前に、こうしたカード化しにくい特性についても十分に検討しておくことが必須」と書いています。チーズは通常、10キロの生乳から1キロしか取れません。もしイタリアの研究が示すように、A2乳がチーズの収量を下げる性質を持っているとすれば、北海道の乳業工場全体にとって極めて重大な影響を及ぼします。飲むための生乳として優れているかどうかと、加工するための原料として優れているかどうかは、まったく別の基準で評価される要素です。



バターへの影響を語る比較研究は存在しない


チーズやヨーグルトの話題が出る一方で、バターについてはA1とA2の比較が語られません。理由は単純で、バターへの影響を検証した比較研究が見当たらないからです。チーズやヨーグルトがカゼインというタンパク質の網目で固まるのに対し、バターは乳脂肪の純粋な塊です。生乳から脂肪分だけを集めたクリームを激しくかき混ぜ、脂肪の球を包んでいる膜を破り、中の脂肪同士をぶつけてくっつけることで作ります。この工程において、タンパク質の型がどう影響するかは今のところ確かめられていません。わからないことに対しては、わからないと線を引くことが誠実な態度です。A2ミルクがすべての乳製品において特別な性質を発揮するわけではありません。タンパク質が主役になる製品と、脂肪が主役になる製品では、見るべき成分が異なります。冷蔵庫を開けて、並んでいる乳製品を眺めてみてください。飲むためのミルクと、固めて食べるためのチーズやヨーグルト。同じ生乳から生まれるものでも、その中で働いている成分の顔はまったく違うことに気づくはずです。



よくある質問


Q. A2ミルクで手作りチーズを作ることはできますか

可能です。研究によって収量や固まる時間に差が出るとの報告はありますが、全く固まらないわけではありません。家庭でレモン汁や酢を使って作る簡単なカッテージチーズであれば、カゼインの型の違いを気にすることなく作ることができます。


Q. A2ミルクで作ったチーズは市販されていますか

海外では一部販売されていますが、国内ではまだほとんど流通していません。A2ミルクの生産自体が限られていることに加え、チーズ工場でA2ミルク専用の製造ラインを分けるコストがかかるためです。


Q. A2ミルクのヨーグルトは普通のヨーグルトと味が違いますか

味そのものよりも、食感に違いが出ると指摘されています。タンパク質の網目が細かく多孔質になるため、柔らかくクリーミーな口当たりになる可能性があります。酸味や甘味は、使用する乳酸菌の種類や発酵時間によって決まるからです。


Q. A2ミルクでバターを作ることはできますか

作ることができます。バターは乳脂肪を集めて固めたものであり、タンパク質の型であるA1やA2の違いは製造工程に影響しません。生乳からクリームを分離し、激しくかき混ぜて脂肪分をまとめる手順は通常のバターと同じです。


Q. チーズの加工適性が低いとはどういうことですか

同じ量の生乳から取れるチーズの量が少ない、固まるまでに時間がかかる、出来上がったチーズの弾力が弱いといった性質のことです。工場での大量生産においては、これらの要素がコストと品質に直結します。


Q. なぜ研究によって結果が正反対になるのですか

生乳が自然の産物であり、条件を完全に揃えることが難しいためです。比較対象となる乳に別のバリアントが混ざっていたり、牛の食べている草や季節が違ったりすることで、タンパク質の働きが変化します。現時点で統一された見解はありません。



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この記事はミルクデザイン株式会社が作成しています。北海道紋別郡西興部村で、萩原牧場のグラスフェッド生乳から牛乳・ヨーグルト・バター・チーズ・アイスクリーム・ソフトクリームを製造しています。

 
 
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