バターの値上げが続く理由を分解する
更新日:8月20日
バターの値上げが続く理由は、単に生乳の価格が上がったからではありません。バターの原価は生乳だけでなく、輸入飼料、包装資材、物流費など複数の要素が積み重なっています。値札の動きは、それぞれのコストが別々の時計で進んだ結果です。
バターの価格は生乳以外の複数のコストが連動して決まる
バター1キログラムを作るには生乳が約20から23キログラム必要とされます。スーパーでよく見る200グラムの箱入りバターなら、約4リットル分の生乳が使われている計算です。牛乳パック4本分のミルクが、あの小さな四角い箱に凝縮されています。生乳の価格がわずかに上がっただけでも、バターにはその数十倍の影響が及びます。
日本の酪農は牛舎で飼う「舎飼い」が約9割を占めるとされます。牛の食事となる濃厚飼料の約87パーセントは輸入に頼っているのが現状です。海外の天候不良で穀物が不作になったり、船の輸送費が高騰したりすると、牛の食事代が跳ね上がります。それが生乳の価格を押し上げる大きな要因です。
しかし、バターの原価はそれだけではありません。バターを包む銀色の紙、外側の紙箱、工場を冷やす電気代、お店まで運ぶトラックの燃料代。これらすべてが製造コストに含まれます。生乳の価格が据え置きの時期であっても、包装資材や電気代が上がれば、バターの価格は見直さざるを得ません。生乳の時計、資材の時計、物流の時計。複数の時計の針が別々のタイミングで進み、それが重なり合って値上げという結果を生んでいます。
では、輸入飼料に頼らず日本の草を食べる牛のバターなら、価格は変わらないのでしょうか。
国産の草を食べる牛のバターも季節と手間の影響を直接受ける
日本の飼料自給率は26パーセントです。当社は北海道西興部村で、牛を放牧して国産の草を食べさせるグラスフェッド酪農を行っています。輸入飼料の影響は受けにくいですが、価格が固定されるわけではありません。広大な牧草地を維持するためには、草を育てるための肥料代や、草を刈り取るトラクターの燃料代がかかります。これらもまた、エネルギー価格の波を直接受ける要素です。
また、自然の草を食べる牛のミルクは、季節の移り変わりをそのまま反映します。夏にあたる青草の時期は、青草の香りが立ち、すっきり軽やかな味になります。色は黄色みを帯びます。冬の貯蔵草の時期になると、乳脂肪が乗ってコクが増し、濃厚な味わいに変わります。色は白に近づき、草の香りは穏やかになります。お客様からも「軽さに驚く」「あっさりしている」という声をよくいただきます。
季節によって乳脂肪分が変わるということは、同じ量の生乳から取れるバターの量も変動するということです。夏のすっきりしたミルクから冬と同じ量のバターを作るには、より多くの生乳が必要になります。季節の移ろいに合わせて製造工程を調整し、搾ったミルクの性質に向き合う手間が、そのまま原価に跳ね返ります。
次に、バターを形にする工房の中の工程を見てみます。
小ロットで作るバターは製造工程のすべてが原価に直結する
バター作りは、生乳からクリームを分離し、激しくかき混ぜて脂肪分をまとめる作業です。大規模な工場であれば、機械が24時間動き続け、大量生産によって一つのバターにかかるコストを薄めることができます。巨大なタンクと自動化されたラインが、価格を安定させる役割を担っています。
一方、牧場に併設された小さな工房では、その日に搾ったミルクの量に合わせて小ロットで製造します。タンクの洗浄、クリームの温度管理、できあがったバターの箱詰めまで、人の手が欠かせません。包装資材の単価は、一度に発注する量が少ないほど高くなります。電気代の高騰も、少ない製造個数で割らなければならないため、一つひとつのバターに重くのしかかります。
その結果、小ロットで作るバターの原価はどうしても高くなります。しかし、この規模だからこそ、季節ごとのミルクの風味を逃さずにバターに閉じ込めることができます。大量生産の効率化とは違う時計の針で動いているからこそ、独自の味わいが生まれます。
この手間の積み重ねが、スーパーの棚に並ぶときの設定価格に表れます。売り場に並ぶバターの値段を見たとき、私たちはそこから何を読み取ればよいのでしょうか。
値札の向こうにある製造背景を理解してバターを選び取る
バターの値上げは、世界中の出来事と日本の牧場の日常が交差した結果です。次にスーパーの乳製品売り場に立ったとき、手に取ったバターの背景を想像してみてください。
大量生産で価格を抑える仕組みが詰まったバターがあります。一方で、国産の草を食べ、季節の味をそのまま届ける小ロットのバターもあります。どちらが良い悪いではなく、値段の理由を知ることで、自分の食卓に迎え入れたいものが見えてきます。価格の裏側にある構造を知れば、棚に並ぶ商品の見え方が変わります。
朝のトーストにバターを乗せて、ゆっくりと溶け出すのを待つ時間。その一欠片に、どれだけの生乳が使われ、どのような工程を経てそこにあるのか。一度だけ調べてみると、いつものトーストが少し違って見えます。
次に冷蔵庫を開けてバターを取り出すとき、その四角い塊の中にどんな風景が詰まっているか、思いを巡らせてみてください。
よくある質問
Q. バターの値段が下がる時期は来ますか。 短期的に大きく下がることは見込みにくい状況です。飼料代、包装資材、物流費など、バター作りに関わる複数のコストが同時に下がる条件が揃う必要があるためです。
Q. グラスフェッドバターはなぜ普通のバターより高いのですか。 国産の草を育てる土地と手間が必要だからです。広大な放牧地を維持する費用や、季節ごとに変動する乳量に合わせて小ロットで手作業で製造する工程が、価格に反映されています。
Q. 季節によってバターの色が違うのはなぜですか。 牛が食べる草の状態が変わるからです。夏は青草を食べるため黄色みを帯び、冬は乾燥させた貯蔵草を食べるため白に近づきます。
関連する用語
この記事はミルクデザイン株式会社が作成しています。北海道紋別郡西興部村で、萩原牧場のグラスフェッド生乳から牛乳・ヨーグルト・バター・チーズ・アイスクリーム・ソフトクリームを製造しています。


