A2ミルクのバター
- 8月18日
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更新日:8月20日
A2ミルクで作ったバターという言葉は成立しますが、A2ミルク特有の意味はほとんど残りません。A1かA2かという議論の対象は乳たんぱく質ですが、バターに移行するのは乳脂肪だからです。生乳を分離してバターにする過程で、話題の中心であるたんぱく質は先に抜けてしまいます。
バター作りの工程でたんぱく質は排出される
バターの主成分は脂肪です。生乳からバターを作る工程は、脂肪を集める作業の連続です。まず生乳を遠心分離機にかけ、脂肪分の多いクリームと少ない脱脂乳に分けます。この時点で、生乳に含まれていた多くのたんぱく質は脱脂乳側に移ります。
次に、クリームを激しくかき混ぜます。この工程により、脂肪の粒同士がくっつき、大きな塊に成長します。脂肪がまとまる一方で、バターミルクと呼ばれる水分が分離して弾き出されます。この水分の中にもたんぱく質が含まれており、外へ排出されます。
残るのは集まった脂肪とわずかな水分だけです。A2ミルクの話題はβカゼインというたんぱく質の話ですが、バターにはそのたんぱく質自体がほとんど残っていません。たんぱく質の型を気にする土俵には乗りにくい構造です。
A2ミルクとはたんぱく質の配列の違いによる慣用的な呼称
A2ミルクは、βカゼイン遺伝子がA2A2型の牛だけから搾った乳を指す慣用的な呼称です。日本の食品表示基準に法令上の定義規定は見つけられませんでした。
βカゼインは209個のアミノ酸からなります。端から67番目がプロリンであればA2型、ヒスチジンであればA1型と呼ばれます。牛は両親から1本ずつ遺伝子を受け継ぐため、遺伝子型はA1A1、A1A2、A2A2の3通りがあります。
A2ミルクを作るには、A2A2型の牛だけを選んで搾乳する必要があります。さらに、他の型の乳が混ざらないように、集乳や製造の工程を厳密に管理しなければなりません。国内で流通している認証は民間の任意認証です。
消化管の中でのたんぱく質の振る舞いとβカソモルフィン7
たんぱく質の消化は胃から始まります。胃酸によってペプシノーゲンがペプシンに変わり、至適pH2.0から3.0でたんぱく質の内部の結合を切ります。膵臓から分泌された酵素は十二指腸で活性型のトリプシンなどに変わり、最終的にアミノ酸とオリゴペプチドとして吸収されます。
牛乳のカゼインは胃に入ると胃酸で凝集してカードと呼ばれるヨーグルト状の塊になり、いったん胃に留まります。この現象が牛乳は胃の中で固まるので消化されにくいと誤解されることがありますが、実際は全く逆で、固まるからこそ消化が良くなります。
A1型は67番目がヒスチジンであるため、ここの結合がペプシンやトリプシンなどで切断されやすく、上流の7つのアミノ酸残基が切り出されてβカソモルフィン7(βカソモルフィン7)というペプチドができるとされます。A2型は67番目がプロリンで、酵素の影響を受けにくくβカソモルフィン7が生成されないとされます。ただし、これは試験管の中での確認です。実際に胃や小腸でβカソモルフィン7が生成し、それが血中に存在したり腸管に刺激を与えたりすることについての臨床的な検証は十分に行われていません。
チーズやヨーグルトなどたんぱく質を固める加工への影響
たんぱく質が主役となる加工品では、A1とA2の違いが表に出る可能性があります。
チーズ製造への影響については、論文の結論が割れています。2025年のイタリアの試験では、A2型の乳はA1/B型の乳よりレンネット凝固時間が2.8分長く、収量が下がり硬さも低かったとして、製造の効率を下げるという結論が出ました。一方、2022年のスペインの試験では、A2乳のほうがカードの硬度やチーズ収量とも高く、大きな差なく製造可能であると結論しています。
ヨーグルトについては、A2型の乳でつくったゲルは弾性率が低く、より多孔質でタンパク質鎖が細い微細構造になるという報告があります。ここから、A2ミルクは柔らかくクリーミーなヨーグルトの製造に適している可能性があり、逆にゲル強度が高く安定した硬さのあるヨーグルト製造には向かない可能性も考えられます。
おなかの不調と乳糖の関わり
牛乳を飲んでおなかが不調になる理由は一枚岩ではありません。
2025年のフィンランドの試験では、乳糖耐性の人ではA2ミルクと通常乳のあいだに症状の差はなく、乳糖不耐の人では乳糖の量が増えるほど症状が増えました。乳糖を除いた牛乳と比べたとき、A2ミルクが優れるという結果は出ませんでした。
2020年の試験でも、乳糖不耐と確定診断された人ではA2ミルクが症状を軽減した一方で、検査では乳糖不耐でなかった人では牛乳の種類にかかわらず飲んですぐに症状が出ました。
一方で、国内で行われた臨床研究では、乳糖を減らした牛乳を飲んでも明らかな症状を訴える人が一定数存在しました。乳糖を原因としない消化器症状を発現する人がいる可能性も指摘されています。
「A1が完全に混ざらない」と言い切る難しさ
「A1がゼロ」と言い切ることには、公的機関が過去に待ったをかけています。2003年、ニュージーランドの公正取引当局は、A2ミルクにβカゼインA1が全く含まれないと消費者に誤って示唆する表現は公正取引法に違反するおそれがあると警告しました。事業者は販促物から完全排除を示唆する表現を削除することに同意しています。
日本A2ミルク協会の認証制度も、定期的な抗体を用いた検査でA1の混入を確認する仕組みです。A1が何%未満といった数値の閾値は公表資料に記載がありません。A1を含まないのではなく、混ざらないように管理する工程への評価と言えます。
よくある質問
Q. バターでおなかがゴロゴロすることはありますか バターの主成分は脂肪であり、おなかがゴロゴロする原因となる乳糖や、議論の対象であるβカゼインは製造工程でほとんど排出されます。そのため、牛乳を飲んで不調になる方でも、バターでは同じ症状が出にくい構造になっています。
Q. A2ミルクのバターはありますか 原料としたバターを製造している事例はありますが、数は限られます。バターは乳脂肪分を集めたものであり、たんぱく質の違いであるA1やA2の特性が製品にほとんど残らないため、あえてA2ミルクで作る意義が見出しにくいという背景があります。
Q. A2ミルクを飲めば牛乳の不調はなくなりますか すべての方の不調がなくなるわけではありません。乳糖が原因で不調になる方にとっては、A2ミルクにも乳糖が含まれているため症状が出る可能性があります。一方で、乳糖以外に原因がある場合は変化を感じる方もいます。不調の原因がどこにあるかで結果は変わります。
Q. A2ミルクはチーズ作りに向いていますか 研究によって結論が分かれています。チーズの収量が落ち、硬さも低くなるため製造効率が下がるとする報告がある一方で、問題なく製造できるとする報告もあります。カード化しにくい特性については十分に検討しておく必要があります。
関連する用語
この記事はミルクデザイン株式会社が作成しています。北海道紋別郡西興部村で、萩原牧場のグラスフェッド生乳から牛乳・ヨーグルト・バター・チーズ・アイスクリーム・ソフトクリームを製造しています。


