A2ミルクの値段はなぜ高いのか
- 8月18日
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更新日:8月19日
A2ミルクが通常の牛乳より高い理由は、特別なエサや機械のせいではなく分離コストにあります。同じ牧場や工場で牛乳を作っても、A1とA2を混ぜないという工程を維持するだけで値段は変わります。特別な成分を後から足すのではなく、最初から最後まで混ざらないように分けること自体が価格に直結している構造です。
遺伝子を調べて牛を分けるコスト
A2ミルクを作る第一歩は、牛一頭一頭の遺伝子型を調べることです。牛がA1型とA2型のどちらのβカゼインを作るかは、耳片や毛根から採った遺伝物質を調べて判定します。日本の認証制度では遺伝子解析技術を応用し、配列がプロリンを指定する型かヒスチジンを指定する型かを検出します。国内の受託分析でも生乳を試料に推定混入量を算出する検査が受けられ、価格は30,000円(税別)と公開されています。
牛は父方と母方から一つずつ遺伝子を受け継ぎ、遺伝子型は三通りに分かれます。A2ミルクを作るには、二つともA2型を持つ牛だけを選んで搾乳しなければなりません。牧場に他の型を持つ牛がいる場合、群れを物理的に分け、搾乳機や配管も分けるか、洗浄の徹底が求められます。遺伝子を調べる初期費用に加え、日々の作業で特定の牛だけを別の群れとして管理する手間が、最初の価格差を生む要因です。
運搬と工場で混ぜないためのコスト
日本の生乳流通は、複数の牧場の乳を大型の運搬車で一つに集め、大きな工場で一括処理する仕組みが基本です。しかしA2ミルクを作るには、特定の牛から搾った乳だけを他の乳と混ざらないように運ぶ工程が加わります。
専用の運搬車を用意するか、集乳ルートを完全に分けなければなりません。工場に到着してからも、専用タンクで保管し、専用ラインで殺菌と充填を行うか、他の牛乳を製造する前後に配管を徹底的に洗浄して切り替える作業が発生します。
牛乳の製造ラインは、大量の乳を途切れなく流すことで効率を上げ、一本あたりのコストを下げる構造です。途中で機械を止め、洗浄し、別の乳を流す切り替えは、工場の稼働率を落とす最大の要因になります。A2ミルクの値段には、この効率を落としてでも別々に扱うコストが含まれています。同じ機械を使っても分けて通すだけで製造のハードルは上がり、分けた状態が保たれているかを証明する工程も必要です。
混入がないか定期的に確かめるコスト
A2ミルクとして販売を続けるには、本当にA1が混ざっていないかを定期的に検査し続けなければなりません。日本A2ミルク協会の認証では、βカゼイン全般に結合する抗体とA1型だけに結合する抗体で挟む免疫測定法が使われ、月一回の定期検査が義務づけられています。
この検査法は東京農業大学と重井医学研究所が共同開発したもので、日本国内で検査と認証の体制が整ったのは2020年代に入ってからです。学術の世界では、タンパク質そのものを液体クロマトグラフ質量分析で直接測る方法も報告されています。
過去には、A1がゼロと言い切ることに公的機関が待ったをかけた歴史も存在します。2003年、ニュージーランドの公正取引当局は、全く含まれないと消費者に誤って示唆する表現は公正取引法に違反するおそれがあると警告し、完全排除を示唆する表現を削除させました。だからこそ、混ざらないように管理し、検査で確かめ続ける体制が必要になり、それが価格に上乗せされる構造です。
黎明期の市場構造と特許の現在地
A2ミルクは、βカゼイン遺伝子が特定の型を持つ牛だけから搾った乳を指す慣用的な呼称です。最初に家畜化された牛はA2型の遺伝子を持っていたと考えられ、進化の過程でヨーロッパ地域の牛で変異が起き、A1型を作るようになったと考えられています。現在、アフリカやアジアの牛はほとんどがA2型のみを作りますが、ヨーロッパや日本の牛は両方を作る状況です。
日本では2024年1月に日本初の品質管理基準と認証制度が発表され、3月に認証第1号の牛乳が発売されたばかりです。国内で流通している認証は民間の任意認証であり、黎明期である今は、専用の物流や検査体制を少数で支えなければならず、割高になりやすい構造にあります。
かつて中核となる特許は実在し、権利を借りる方式で生産者に作らせていた時期もありました。しかし、それらの特許は2015年から2016年に満了を迎えています。現在、日本の農場や乳業が作るのに特許の許諾は必要ありません。今後、特定の牛を飼う牧場が増え、専用の集乳ルートや製造ラインが効率化されれば、分離コストは下がり、価格差も縮まっていく可能性があります。牛乳の値段の裏にある構造を知った上で、明日の売り場を眺めてみてください。
よくある質問
Q. A2ミルクと普通の牛乳は味や栄養が違うのですか? βカゼインの型が異なるだけで、牛乳の味が劇的に変わることはありません。牛乳の味は、牛が食べているエサや季節、殺菌温度によって決まるものです。当社はグラスフェッド生乳を扱っていますが、風味の輪郭を作るのは草の質と季節の移り変わりです。栄養面でも、タンパク質のアミノ酸配列が一箇所異なるだけで、全体的な栄養価に違いは生じません。
Q. スーパーの牛乳売り場にA2ミルクが無いのはなぜですか? 日本ではまだ黎明期であり、専用の集乳ルートや製造ラインを持つ事業者が少ないためです。国内で検査と認証の体制が整ったのは2020年代に入ってからであり、大手乳業メーカーによる市場への参入の動きも起きていません。現在は、一部の百貨店や高級スーパーで少しずつ取り扱いが始まっている段階です。
Q. お腹がゴロゴロするのはA1のせいですか? 欧州食品安全機関が2009年にまとめた検証報告書では、牛乳を飲んだ時の消化器の快や不快は検証範囲に入っていません。同機関が因果関係なしと結論づけた対象は、自閉症や1型糖尿病などの非感染性疾患です。お腹の調子については、個人の体質やその日の体調による差が大きく、すべてがA1βカゼインのせいであると断定することはできません。
Q. A2ミルクなら乳糖不耐でも飲めますか? 乳糖不耐は、牛乳に含まれる糖分である乳糖を分解する酵素が少ないために起こる症状です。A2ミルクはタンパク質の型が異なるだけで、乳糖は通常の牛乳と同じように含まれる成分です。そのため、乳糖不耐の方が飲んでも、乳糖が原因でお腹がゴロゴロする可能性は残ります。
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この記事はミルクデザイン株式会社が作成しています。北海道紋別郡西興部村で、萩原牧場のグラスフェッド生乳から牛乳・ヨーグルト・バター・チーズ・アイスクリーム・ソフトクリームを製造しています。


