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なぜ牛にA1とA2の2種類が生まれたのか

  • 8月18日
  • 読了時間: 9分

更新日:8月19日

カゼインの遺伝子について検索すると、A1とA2という二つの型に行き当たります。この違いは、ウシの第6染色体にある遺伝子のわずかな配列の違いから生じています。「A2ミルク」という言葉の響きから新しい品種改良の結果だと受け取る人もいますが、実はA2は古いほうの型です。最初に家畜化された牛が持っていた本来の姿がA2であり、進化の過程でA1という型が後から生じたと考えられています。



最初に家畜化された牛の祖先はA2型の遺伝子を持っていた


朝のトーストと一緒に楽しむチーズや、グラスに注ぐ牛乳には、カゼインというタンパク質が含まれています。牛乳のタンパク質のおよそ八割を占めるこのカゼインにはいくつかの種類が存在し、その中の一つがβカゼインです。牛の体内でこのβカゼインを作るための設計図となる遺伝子は、ウシの第6染色体に書き込まれています。

最初に家畜化された牛の祖先は、この第6染色体にA2型のβカゼインを作る遺伝子を持っていたと考えられています。つまり、牛が本来持っていた古い設計図がA2型です。スーパーの牛乳売り場に並ぶ「A2ミルク」という文字を見ると、何か新しい成分が追加された画期的な新商品のように映るかもしれません。しかし実際には、牛の祖先がもともと持っていた古い設計図の通りに作られた牛乳を指す言葉です。

遺伝子という設計図は、タンパク質を構成するアミノ酸をどのような順番で繋ぎ合わせるかを決める指示書の役割を果たしています。A2型の設計図に従って、牛の乳腺の細胞内で正確にアミノ酸が一つずつ組み立てられ、長い鎖のようになったものがA2βカゼインです。牛が人間と共に暮らし始めた時代から、このタンパク質は連綿と作り続けられてきました。

もともとA2型しか存在しなかったはずの牛の歴史の中で、なぜ現在私たちの目の前にある牛乳には、A1という別の型が存在するのでしょうか。



自然界の突然変異によってA1型のβカゼインが生じた


進化の歴史のどこかで、ヨーロッパ地域の牛に自然突然変異が起きました。ウシの第6染色体にあるβカゼインの遺伝子の中で、アミノ酸の配列を指定する暗号にわずかな書き換えが発生したのです。

遺伝子の設計図は、複数の塩基が一つになって一つのアミノ酸を指定する仕組みを持っています。具体的には、プロリンというアミノ酸を指定する三つの塩基配列のうち、真ん中にあるシトシンがアデニンに変わる一塩基置換が起きました。このたった一つの塩基の変化によって、ヒスチジンという全く別のアミノ酸を指定する配列へと書き換わりました。タンパク質は多数のアミノ酸が鎖のように連なってできていますが、その長い鎖のうち、67番目の位置がプロリンからヒスチジンに変わったことで、A1βカゼインを作るようになったと考えられています。

遺伝子の世界において、このような変異は決して特別なことではありません。生き物が命を繋いでいく過程で、設計図のわずかな書き換えは日常的に起きています。実際、βカゼインの遺伝子にはA1とA2の二種類しかないわけではありません。これまでにA3・B・C・D・E・F・G・H1・H2・Iなどの対立遺伝子があることが知られています。その構造は、牛の品種や個体が持つ遺伝的特性によって多様に分岐しています。

自然の中で起きたこの突然変異によって生まれたA1型の遺伝子は、その後どのようにして世界中の牛たちに広がっていったのでしょうか。



牛が暮らす地域によって遺伝子型には偏りがある


現在、世界中にいる牛の遺伝子型を調べていくと、地域によって明確な偏りがあることが分かります。この偏りは、牛が歴史の中でどのように移動し、人間の手によってどの地域に定着させられたかという足跡をそのまま示しています。

地域で見ると、ほとんどのアフリカおよびアジアの牛はA2βカゼインのみを産生します。これらの地域では、古いA2型の遺伝子を持った牛の集団がそのまま独自の進化を遂げてきた背景があります。一方、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドおよび日本の牛は、A1とA2の両方のβカゼインを産生します。日本のように近代になってから海外から乳牛を輸入して酪農を発展させた国では、輸入元の牛が持っていた遺伝子の傾向をそのまま受け継いでいます。

品種の傾向として、ホルスタインなどのアメリカやヨーロッパの品種は主にA1βカゼインを産生します。対して、旧世界のガーンジーやジャージー、インドの牛はA2βカゼインを産生する傾向を持っています。日本の牧場で最も多く飼育されている白黒模様のホルスタインは、ヨーロッパをルーツとする品種です。そのため、私たちが日常的にスーパーやコンビニで手にする牛乳の大半は、A1とA2の両方を作る遺伝子を持った牛たちから搾られています。

なぜヨーロッパ系の牛にA1型の遺伝子が多く含まれるようになったのでしょうか。



人間が意図してA1型の遺伝子を選んで増やしたわけではない


欧州食品安全機関が2009年に出した報告書は、結論部分で牛の品種構成の変化について触れています。「ここ数十年の選抜目標の変化が、ほとんどの欧州諸国で牛の品種構成の変化をもたらした。詳細な情報は無いものの、こうした品種構成の変化が、乳たんぱく質のバリアントの濃度や種類を含めて乳組成に影響を与えてきた可能性が高い」と述べています。

酪農の歴史の中で、人間は少しでも多くの乳を出してくれる牛や、厳しい環境に適応して丈夫に育つ牛を選んで育ててきました。しかし、欧州食品安全機関自身が「詳細な情報は無い」と断っているように、人間がA1型の遺伝子を意図的に狙って増やしてきたわけではありません。

遺伝子検査の技術がなかった時代、牧場に立つ酪農家が牛の血統を残す基準は、目の前にいる牛の体格や毎日の搾乳で得られる乳の量という、目に見える結果だけでした。朝夕の搾乳のたびに、どの牛がより多くの乳を出してくれるかという実績が、次の世代を残すための唯一の指標だったのです。選抜の目標はあくまで乳量の増加や厳しい環境への適応であり、顕微鏡でしか確認できないβカゼインの型ではありません。乳量が多いヨーロッパ系の牛を優秀な血統として選抜し、世界中の牧場へと広めていく過程で、それらの牛が偶然持っていたA1型の遺伝子も一緒に広がっていったと考えられます。

それでは、乳量ではなく品種名を見れば、その牛がA1型かA2型かを見分けることはできるのでしょうか。



牛の品種名だけで個体の遺伝子型を断定することはできない


「ジャージー牛の牛乳ならA2である」と単純に結びつけることはできません。確かにジャージー牛という品種全体で見れば、A2βカゼインを産生する傾向はあります。しかし、個々の牛が実際にどの型の遺伝子を持っているかは、個別に調べないと分からない問題です。

Jミルクは、日本国内で行われた臨床研究において、ジャージー牛乳を飲んでも症状が軽減しなかった例を取り上げています。そしてその理由として、「試験に用いたジャージー牛乳にある程度のA1βカゼインが存在していたため」という考察を紹介しています。

牛も人間と同じように、父親の種牛と母親の母牛から一つずつ遺伝子を受け継ぎます。そのため、A2の傾向が強い品種であっても、父親からA1の遺伝子を、母親からA2の遺伝子を受け継いだ個体は存在します。この場合、その牛の乳腺では二つの設計図が同時に働き、搾った乳の中にはA1とA2の両方のβカゼインが混ざることになります。牧場で草を食む牛たちの姿を見ただけでは、その体内でどちらの設計図が働いているのかを見分けることはできません。

パッケージに書かれた「ジャージー」という品種名だけを見て、中身がすべてA2βカゼインであると判断するのは早計です。本当にA2型のみの牛乳を求めるならば、品種の傾向ではなく、一頭一頭の遺伝子検査を行って牛群を分けているかどうかが確認の基準になります。



よくある質問


Q. A1とA2の牛乳で見た目や味は違いますか。 遺伝子の違いはタンパク質を構成するアミノ酸の微細な配列の違いであり、牛乳の色や風味に直接的な違いをもたらすものではありません。グラスに注いだときの白さや、飲んだときのコク、香りに至るまで、人間の五感で二つを区別することは不可能です。味の違いは、牛が食べている草の種類や季節、殺菌温度などの要因によって決まります。遺伝子の型ではなく、どのような環境で育ち、どのような製法で作られたかという背景が味を形作っています。


Q. パッケージの成分表示を見ればA1かA2か分かりますか。 分かりません。食品表示法に基づく成分表示の「乳たんぱく質」という項目には、牛乳に含まれるすべてのタンパク質の総量が記載されるだけで、カゼインの型の区別までは記載されません。スーパーの棚でパッケージの裏側をどれだけ眺めても、その牛乳がA1なのかA2なのかを判別する手がかりは得られません。A2のみを集めた牛乳であれば、パッケージの正面などにその旨が明確なメッセージとして記載されています。


Q. A2ミルクは遺伝子組み換え食品ですか。 違います。A1もA2も、牛の長い歴史の中で起きた自然な突然変異と交配によるものであり、人工的な遺伝子操作や遺伝子組み換え技術によって生み出されたものではありません。実験室で意図的に作られたものではなく、自然界の営みの中で自然に発生し、世代を超えて受け継がれてきた形質です。そのため、遺伝子組み換え食品に関する表示義務の対象にもなりません。


Q. スーパーで売られている普通の牛乳はどちらの型ですか。 日本のスーパーで流通している牛乳の大半はホルスタインの生乳であり、A1とA2の両方の遺伝子を持つ牛群から搾られています。そのため、一つのパックの中にA1βカゼインとA2βカゼインが混合して入っています。特定の型だけを分けて搾乳や製造をしていない限り、日常的に私たちが飲んでいる牛乳には両方の型が含まれていると考えるのが自然です。


Q. A1とA2の他にβカゼインの型はありますか。 あります。βカゼインの遺伝子にはA1とA2のほか、A3・B・C・D・E・F・G・H1・H2・Iなどの対立遺伝子が知られています。牛の品種や個体の遺伝的特性によって、様々な構造の変異型が存在します。メディアではA1とA2の二種類だけが存在するかのように語られることもありますが、実際にはより複雑で多様な遺伝子のバリエーションが自然界には存在しています。



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この記事はミルクデザイン株式会社が作成しています。北海道紋別郡西興部村で、萩原牧場のグラスフェッド生乳から牛乳・ヨーグルト・バター・チーズ・アイスクリーム・ソフトクリームを製造しています。

 
 
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