グラスフェッドバターでパン・お菓子は作れるのか
更新日:8月20日
グラスフェッドバターでパンやお菓子を作ることは十分に可能です。ただし、いつものレシピ通りに進まないことがあります。それはあなたの腕や配合のせいではなく、バターの性質が季節によって変化しているからです。
グラスフェッドバターは季節で脂肪の性質が変わる
パンやパイを作る際、バターの硬さや溶けやすさは生地の仕上がりを左右します。製菓や製パンではこれを可塑性と呼ぶのが一般的です。市販のバターは一年を通じてこの性質が一定になるように作られています。工場で脂肪分のバランスを調整し、いつでも同じ硬さで使えるようにしているからです。
しかし、グラスフェッドバターは違います。牛が食べる草の変化に合わせて、乳脂肪の性質がそのままバターに現れます。夏は水分を多く含んだ青草を食べる季節です。この時期のバターは脂肪が柔らかく、すっきり軽やかな味わいに仕上がります。冬は乾燥させた貯蔵草を食べて過ごすようになります。乳脂肪が乗ってコクが増し、バター自体もしっかりとした硬さを持つのが特徴です。
季節によってバターの溶け出し方や生地への馴染み方が変わるということです。レシピ本に書かれた「室温に戻す」という一文も、夏のグラスフェッドバターと冬のグラスフェッドバターでは意味合いが異なります。目の前のバターが今どのような状態かを知ることが、パン作りの第一歩です。
夏のバターは冷やしながら素早く折り込む
夏のグラスフェッドバターは、色が黄色みを帯びています。ベータカロテンは脂溶性のため、牧草由来のものが乳脂肪に移り、バターの黄色みとして現れるからです。青草の香りが立ち、口に含むとすっきりと軽いのが特徴です。
この時期のバターを使ってクロワッサンやデニッシュを作る時は、温度管理に気を配ります。脂肪が柔らかいため、生地に折り込んで麺棒で伸ばす作業の途中で、バターが溶け出してダレやすくなります。作業台の温度が高いと、層が潰れてパンが膨らみません。
対策はシンプルです。生地とバターをこまめに冷蔵庫へ戻して休ませるようにします。一度伸ばしたら冷やし、また伸ばすという工程の繰り返しです。少し手間はかかりますが、焼き上がったパンからは青草の香りがふわりと立ち上ります。お客様からも「軽さに驚く」「あっさりしている」という声をよくいただきます。夏のバターだからこそ出せる、軽快な食感です。次に涼しい季節のバターを見てみましょう。
冬のバターはしっかり練り込んでコクを引き出す
冬になると、牛たちは乾燥させた干草や発酵させたサイレージを食べます。この時期のグラスフェッドバターは色が白に近づき、草の香りは穏やかなものに変わるのが自然な変化です。その代わり、乳脂肪が乗ってコクが増し、全体的に濃厚な味わいになります。
冬のバターはしっかりとした硬さを持っています。パウンドケーキやクッキーを作る際、ボウルの中でバターに空気を含ませるクリーミングという作業に最適です。冷蔵庫から出してすぐのバターは硬すぎるため、指で押してすっと跡がつく程度まで常温で戻します。ホイッパーで混ぜていくと、しっかりと空気を含んで白っぽくふわふわに変化していくのがわかります。
焼き上がったお菓子は、ミルクの甘みが残り、深いコクを感じます。同じ分量で作っても、夏に焼いたものとはまったく別の表情を見せてくれるはずです。季節ごとに変わるバターの性質をそのまま生地に練り込むことができるのは、作り手にとって大きな楽しみです。
栄養成分の違いが焼き上がりの風味に影響する
グラスフェッドバターは、一般的なバターと比べて含まれる成分にも違いがあります。放牧された牛の乳から作ったバターは、混合飼料を与えた牛の乳から作ったバターに比べ、共役リノール酸(シス9トランス11)とトランスベータカロテンの濃度が有意に高かったと報告されています。これは2016年に米国の乳製品科学の学術誌へ掲載された、放牧と舎飼いの給与体系を比べた研究によるものです。
こうした成分の違いが、オーブンの中で熱を通した時の香りの立ち方や、口に含んだ時の風味の広がりに影響を与えます。生地の中でバターが溶け出し、小麦粉と結びつく過程で、牧草由来の成分がパンやお菓子に独自の奥行きをもたらすのです。
私たちは小さな工場で、季節ごとの生乳の変化に向き合いながらバターを打っています。大量生産のように味を均一化することはできませんが、その時期の牛の状態がそのまま製品に反映されるのが醍醐味です。パンを焼くオーブンの前で、その成分の違いを香りとして受け取ることができます。生地の状態をどう見極めるのか、最後に確認します。
レシピの微調整は生地の状態で判断する
グラスフェッドバターを使ってパンやお菓子を焼く時は、時計や温度計だけでなく、生地に直接触れて状態を確かめます。季節で動くバターの性質に合わせて、自分の手の感覚で微調整を行います。
今日から試せる具体的な動作は以下の通りです。
冷蔵庫から出したバターを指で押し、すっと入る硬さか確かめる
ボウルで混ぜる途中で分離しそうなら、すぐに底を氷水に当てる
麺棒で伸ばす際、生地からバターが透けて溶け出していないか見る
焼き上がりの香りを嗅いで、青草の香りかミルクの甘みかを感じ取る
うまくいかない日があっても、それは失敗ではありません。自然の揺らぎをそのまま受け入れる作業です。今日のバターはどんな表情をしているでしょうか。
よくある質問
Q. グラスフェッドバターは有塩と無塩どちらをパン作りに使うべきですか
基本的には無塩バターを使います。有塩バターを使うと、塩分によってパンのイーストの発酵が抑えられ、膨らみが悪くなることがあります。無塩バターを選び、レシピの塩の量で全体の味を調整してください。
Q. ホームベーカリーでもグラスフェッドバターは使えますか
もちろん使えます。材料を投入する際、バターは細かく切ってから入れると生地に早く馴染みます。夏の柔らかいバターならそのままでも混ざりやすいですが、冬の硬いバターは室温で少し戻してから入れると良いです。
Q. 普通のバターで作る時と焼き時間は変わりますか
オーブンの設定温度や焼き時間は同じで問題ありません。ただし、生地の水分量やバターの溶け出し方が季節でわずかに異なるため、焼き上がりの数分前にオーブンの窓から焼き色を確認してください。
関連する用語
この記事はミルクデザイン株式会社が作成しています。北海道紋別郡西興部村で、萩原牧場のグラスフェッド生乳から牛乳・ヨーグルト・バター・チーズ・アイスクリーム・ソフトクリームを製造しています。


