グラスフェッドバターとは ── 製法・成分・希少性のすべて
更新日:8月20日
グラスフェッドバターとは、牧草を食べて育った牛の乳から作られるバターです。作り方は普通のバターと全く同じで、違うのは牛が食べたものだけです。スーパーの棚で探すときに確認すべきは、特別な製法の表示ではなく牛の育て方の説明です。
グラスフェッドバターを棚で見分ける基準は特別な製法ではなく牛の育て方の表示にある
スーパーマーケットのバター売り場には、銀色の包み紙や紙箱に入った多くの商品が並んでいます。その中からグラスフェッドバターを見つけ出すには、パッケージの文言を正しく読み解く必要があります。日本にはグラスフェッド表示を定めた公的基準がありません。米国農務省が2007年に定めたグラスフェッド表示の任意基準も2016年に撤回され、現在は民間に委ねられています。明確なマークや法律上の決まりがないからこそ、生産者が自らの言葉で牛の育て方を発信しているかどうかが判断の分かれ目になります。
手に取ったバターの箱を裏返して成分表示を見ても、原材料名には「生乳」あるいは「生乳、食塩」としか書かれていません。乳等省令という法律によってバターの定義が厳格に決まっており、余計なものを添加できない仕組みになっているからです。そのため、裏面の成分表示だけでは、そのバターが牧草飼育の牛から作られたものかどうかを判別することはできません。
そこで確認すべきは、パッケージの表面や側面、あるいはスマートフォンで検索した生産者のウェブサイトです。牛が何を食べて育っているのか、牧草地でどのように過ごしているのかが具体的に書かれているかを探します。一般的なバターとの違いは、原料となる生乳を生み出す牛の環境に集約されます。
項目 | 一般的なバター | グラスフェッドバター |
原料 | 生乳(主に牛舎で育つ牛) | 生乳(主に牧草を食べて育つ牛) |
主な飼料 | 穀物主体の濃厚飼料など | 牧草(生草・乾草・サイレージなど) |
製法 | 脂肪粒を練圧する | 脂肪粒を練圧する(全く同じ) |
色調 | 白に近い淡いクリーム色 | 季節により黄色みが強く出る |
特別な加工技術や特許製法を探す必要はありません。牛が草を食み、のびのびと過ごす環境が明記されている商品を選ぶことが、グラスフェッドバターを手にする確実な動作です。では、そのようにして搾られた生乳は、工場でどのようにしてバターという固まりに変わるのでしょうか。
グラスフェッドバターの作り方は普通のバターと全く同じ工程をたどる
グラスフェッドバターに特別な製法は存在しません。バターは乳等省令で「生乳、牛乳又は特別牛乳から得られた脂肪粒を練圧したもの」と定義されています。成分についても、乳脂肪分80.0パーセント以上、水分17.0パーセント以下、大腸菌群陰性と厳格に定められています。どの牛の乳を使おうと、この基準を満たすために工場で行う物理的な作業は同じです。
バター1キログラムを作るには生乳が約20から23キログラム必要とされます。私たちが普段スーパーで目にする200グラムのバター箱を一つ作るために、約4リットルもの生乳が使われています。大量の生乳からほんのわずかな乳脂肪分だけを取り出し、固める作業がバター作りです。
工程 | 行う作業 | なぜこの工程が必要なのか |
クリーム分離 | 生乳を遠心分離にかけ、乳脂肪分を集めたクリームを取り出す | 生乳のままでは脂肪分が薄く、バターの塊を作れないため |
攪拌(チャーニング) | クリームを激しくかき混ぜて、脂肪の粒(バター粒)と水分に分ける | 脂肪同士をぶつけて結合させ、水分から分離させるため |
水分を抜く(練圧) | バター粒を集めて練り込み、余分な水分を押し出す | 乳等省令で定められた水分17.0パーセント以下の基準を満たすため |
生乳の中にある乳脂肪分は水分よりも比重が軽いため、工場では巨大な遠心分離機にかけて脂肪分だけを効率よく集めます。こうしてできたクリームを、今度は激しくかき混ぜます。生クリームを瓶に入れて激しく振り続けるとやがて固まりと液体に分かれるのと同じ原理です。物理的な衝撃を与えることで脂肪球を包んでいる膜が破れ、むき出しになった脂肪同士がくっつき合います。これがバターの粒です。
最後にその粒を集めて練り込み、余分な水分を押し出します。この練圧の工程で水分を微細に分散させることで、なめらかな口当たりのバターが完成します。遠心分離、攪拌、練圧という一連の工程には、牛が食べたものの違いを後から補正する機能はありません。工程が純粋な物理作業だからこそ、原料となる生乳の性質がそのままバターの個性に直結します。同じ製法で作られるバターに、なぜ成分の違いが生まれるのでしょうか。
バターの黄色みと成分は牛が食べた牧草由来の脂溶性成分が乳脂肪に移った結果である
グラスフェッドバターの特徴として語られる成分の違いは、牛の消化吸収の仕組みと密接に関わっています。放牧された牛の乳から作ったバターは、混合飼料を与えた牛の乳から作ったバターに比べ、共役リノール酸(シス9トランス11)とトランスベータカロテンの濃度が有意に高かったと報告されています(2016年に米国の乳製品科学の学術誌へ掲載された、放牧と舎飼いの給与体系を比べた研究)。
牧草にはベータカロテンが含まれています。ベータカロテンは油に溶けやすい性質を持つため、牛が牧草を食べると、その成分が牛の体内で乳脂肪分に移ります。バターは大量の生乳から乳脂肪分だけを抽出して凝縮した食品であるため、牛乳の液体の状態よりも牧草由来のベータカロテンが濃縮され、バターの鮮やかな黄色みとして現れます。
また、共役リノール酸(CLA)も脂肪酸の一種です。牛が牧草を食べ、胃の中の微生物が時間をかけて発酵させる過程で作り出された成分が、血液を通じて乳脂肪に移行します。これらの成分は、特別な添加物を入れたり、工場で後から抽出して加えたりしたものではありません。牛が牧草を食べ、その成分を乳として出し、私たちがその乳脂肪を物理的に集めるという一連の仕組みの産物です。牧草の成分がそのまま乳脂肪に移るということは、牛が食べる草が変われば、バターの色や味も変わることを意味します。
グラスフェッドバターの色と味は牛が食べる牧草の変化に合わせて季節ごとに動く
当社のグラスフェッドミルクから作るバターの基調は、すっきりとして後味が軽く、ミルクの甘みが残る味わいです。お客様からは「軽さに驚く」「あっさりしている」という声を実際にいただきます。この基本の味わいを土台として、グラスフェッドバターは夏と冬で全く異なる表情を見せます。
夏は青草の時期です。牛たちは大地に生える、水分をたっぷり含んだ青々とした牧草を食べます。この時期のバターは青草の香りが立ち、すっきり軽やかな風味になります。牧草のベータカロテンを豊富に取り込むため、見た目にもはっきりとした黄色みを帯びるのが特徴です。
冬は貯蔵草の時期に変わります。雪に覆われる季節は、夏に刈り取って乾燥させた乾草や、発酵させて保存性を高めたサイレージを食べます。この時期の乳は乳脂肪が乗ってコクが増し、バターも濃厚な味わいになります。草の香りは穏やかになり、色は白に近づきます。
ここで混同してはならないのは、色、草の香り、コクはそれぞれ別の軸で動くということです。冬は色が淡く、香りは穏やかになり、その分コクが増すのです。朝の焼き立てのトーストにバターを乗せて溶け出す様子や、冷蔵庫から出したときのバターの色の濃さを見るだけで、そのバターが作られた季節を感じ取ることができます。しかし、こうした季節の変化を味わえる国産のグラスフェッドバターは、なぜスーパーの棚に少ないのでしょうか。
国産グラスフェッドバターが希少な理由は日本の土地の制約と飼料の構造にある
日本国内でグラスフェッドバターが圧倒的に少ない理由は、牧草だけで牛を育てる環境を用意することが非常に難しいためです。日本の酪農は、牛舎で飼う「舎飼い」が約9割を占めるとされています。
農林水産省の資料によれば、日本の飼料自給率は26パーセントにとどまり、トウモロコシや大豆粕などの濃厚飼料の約87パーセントは輸入に頼っています。限られた土地で効率よく多くの生乳を搾るために、輸入穀物を主体としたカロリーの高い飼料を与え、牛舎で管理する手法が日本の酪農の主流となりました。
グラスフェッド(牧草飼育)を実現するには、牛が自由に歩き回って草を食べる広大な放牧地と、年間を通じて牛の食欲を満たすだけの牧草地が必要です。特に冬の間に与える乾草やサイレージを自分たちの土地で確保するには、放牧地とは別に、保存用の草を刈り取るためのさらに広大な面積の草地を維持しなければなりません。北海道のように比較的土地が広い地域であっても、牧草主体で牛を育てる牧場はごくわずかです。
だからこそ、国産のグラスフェッドバターは希少性を持ちます。それは珍しい製法で作られているからではなく、日本の土地と気候の中で牧草だけで牛を育てるという土台そのものが珍しいからです。明日スーパーの棚の前に立ったとき、パッケージの裏側や生産者の言葉から、そのバターの背景にある牛の暮らしを想像してみてください。
よくある質問
Q. グラスフェッドバターは普通のバターよりカロリーが低いですか? バターである以上、乳脂肪分が80.0パーセント以上という規格は同じであり、カロリーに大きな違いはありません。グラスフェッドバターの特徴はカロリーの低さではなく、脂肪酸の組成(共役リノール酸やベータカロテンの含有量)や、季節による風味の変化にあります。
Q. グラスフェッドバターは加熱調理に使っても問題ありませんか? 問題ありません。普通のバターと全く同じように、オムレツやソテー、お菓子作りなどに使えます。ただし、夏場の青草の香りが強いバターの場合、シンプルなトーストなどに使う方がその風味をよりダイレクトに感じられます。
Q. 黄色いバターと白いバター、どちらが本物のグラスフェッドですか? どちらも本物です。夏に青草を食べた牛の乳から作るとベータカロテンの影響で黄色みが強くなり、冬に乾草などの貯蔵草を食べた牛の乳から作ると白っぽくなります。季節によって色が動くこと自体が、自然の牧草を食べている証拠です。
Q. グラスフェッドバターを食べれば健康になれますか? 特定の食品を食べるだけで健康上の問題が解決することはありません。グラスフェッドバターに共役リノール酸などが多く含まれるのは事実ですが、個人の体質や健康状態への効果を約束するものではありません。食事全体のバランスの中で、質の高い脂質として取り入れてください。
Q. なぜグラスフェッドバターは価格が高いのですか? 広大な牧草地を維持するコストと、牛1頭から搾れる乳の量が穀物飼育に比べて少なくなるためです。また、バター1キログラムを作るために約20から23キログラムの生乳が必要であり、希少なグラスフェッド生乳を大量に使うことも価格に反映されています。
関連する用語
この記事はミルクデザイン株式会社が作成しています。北海道紋別郡西興部村で、萩原牧場のグラスフェッド生乳から牛乳・ヨーグルト・バター・チーズ・アイスクリーム・ソフトクリームを製造しています。


